7月03日(水)『生の実感』

 生の実感を、どんな時に感じるのだろうか。

アナウンサーをしていたので、生放送の時の、まさに一発勝負の時には。生の実感を感じたものだ。例えば、ニュース番組の中での企画中継では、構成や、受け持ちの分数があらかじめ決まっていて、事前にテストを行なうのだが、放送に入ると、どう展開していくか、分からない場合があるので、その場その場で決断し、精神を集中し、能力の限界に挑戦しながら、放送を行なう。こんな時には、充実感に包まれ、生の実感を味わうことができたように思う。

 お祭で御神輿を担ぐのが私の趣味だが、御神輿を担いでいる時には、担ぎ棒を上げ下げすることに集中し、力を出し切る。担いでいる時には、力を出す事以外には、何も考えない。力が、神輿を担ぐには、もう保てない時に、ようやく正気に戻る感じがする。まさに生に集中して、生を実感している時間だったと思う。

 今でも、NHKで、ニュースを読んでいるが、この時にも生の実感を持つ。ニュースを読む時には、精神を研ぎ澄まして、原稿を読む作業に集中する。漢字の読み間違えや、固有名詞を間違えて読むなんて事はさすがにしないが、集中しないと、時には、噛むことがあるので要注意だ。原稿を読む以外には、何も考えない境地、この時に、生の実感を強く感じる。 

 最近生の実感を感じるのは、トレーニング中の事が多い。ベンチプレスで、バーべルを上げ下げしている時には。大胸筋が圧力を感じている事と、回数以外は何も考えていない。上下させている時に、夕食は何を食べようなんて全く考えないのだ。特に段々疲れてきて後一回挙がるかどうかの瀬戸際では、挙げることに集中して、脳も、気力も、神経も、筋肉も、全てバーベルを挙げるということで働くので、実は何も考えていない。上げることに集中し、無になれる瞬間、これを生の実感と、私は呼ぶ。私は、生の実感を、毎日味わえるので、ジムに毎日足を運んでいるのかも知れない。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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