11月11日(月)『歌舞伎座夜の部を見る』

歌舞伎座、吉例顔見世大歌舞伎の夜の部を見た。鬼一法眼三略巻、菊畑。連獅子。市松小僧の女の三本。

鬼一法眼三略巻、菊畑は、筋自体が面白い物ではないので、好きな役者が舞台に揃って、その芸を競う所が楽しい所だが、今回は梅玉の養子になり、梅丸から莟玉(かんぎょく)を襲名した若い役者の披露狂言である。莟玉は、正直に言って注目してきた役者ではなく、これまで主役は演じた記憶がないので、はらはらしながら見たが、美貌の役者で、舞台に映え、将来を期待したい、応援したいと思った。

莟玉という名跡は聞いた事がないので、どこから来た名前かと思ったが、歌右衛門の勉強会、莟会(つぼみかい)の莟と、梅玉の玉を合わせて作った名跡だと、イヤホンガイドで知った。ガイドの中で、梅玉と莟玉のインタビューがあったが、養子と言うより、仲が良さそうな親子という雰囲気で、楽しく聞いた。梅玉が、いかに莟玉を可愛がっているか分かった。愛情を降り注いで、将来の歌舞伎を支える立派な役者に育てて欲しい。莟玉は、小柄だが、目がぱっちりとしてジャニーズ系の綺麗な顔を持っている。口跡もいい。梅玉が養子に見込んだだけあって、品があって、にんのある役は、すんなりこなしそうだ。役者は、一声二顔と言われるが、両者を兼ね備えているように思えた。丸い顔で、瞳が大きく、綺麗な顔だが、化粧映えするかは微妙だ。美貌の若手女形がいない歌舞伎界、女形にチャレンジしてもいいかもしれない。梅玉は、行儀よく、品があり、ニンにはまる役は、素晴しく演じる役者だけに、梅玉の芸風を継ぐ役者になって欲しい。まださすがに若く、後半ののりじに合わせて、台詞を言う段になると、乗れなかった。まだ無理かもしれないが、乗る努力、情熱がないと、難しい。台詞をいうだけでやっとだった。まずこれからであろう。鬼一法眼の芝翫は、メイクがうまく、若さを消して、佇まいもよく、台詞がきっぱりとして、大きかった。舞台途中で、口上があったが、鴈治郎、芝翫、西と東の成駒屋が揃い、梅玉、魁春兄弟と、少人数だったが、家庭的な口上だったと思う。

連獅子は、幸四郎、染五郎親子の競演。染五郎のきっぱりとした踊りが目を引いた。子獅子のイメージは出た。首を振るシーンは、ぴたりと、二人の息があって見事だった。

市松小僧の女は、初めて見た演目。筋書きには、42年振りの上演と書いてあった。池波正太郎の作で、梅幸と又五郎に当てて書いた作品だそうだ。今回は、男勝りの女、お千代を時蔵。市松小僧又吉を鴈治郎が勤めた。大店の娘だが、剣術を学び、性格は男のようで、大股で歩く、大女のお千代を、時蔵が勤めたが、はまり役だと思った。上手から剣道の稽古着で出てきた時に、胸を張り、大股で歩く姿は、まさしく男の様な女であって、出のこの一瞬で、芝居が面白くなりそうだと感じた。女形でも、普段から女の様な玉三郎や歌右衛門の様な真女形もいれば、歌舞伎を離れると男になる梅幸や時蔵がいるが、男女から、女に戻る役は、真女形では、女の色が強く、男らしさを出し切れないと思う。今回、梅幸の役を、時蔵が勤めたが男女から、働き者の女性への転換が自然で、時蔵にこの役が振られた理由が良く分かった。市松小僧又吉を、前髪で鴈治郎が勤めたが、鴈治郎は、決して若くなく、綺麗でもなく、小柄で太目なのだが、意外にも、可愛さがたっぷりで、驚いた。結婚して、小さな店の経営者になっても、習い覚えたスリを忘れられず、スリを常習してしまう市松小僧又吉。覚せい剤に手を出し、5度も警察に捕まった某タレントの事を思い出した。

42年振りの芝居、時には、こんな世話物の芝居は楽しい。芝翫の同心は、江戸言葉が楽しく、リラックスして演じていた。芝翫は、情のある役は上手いと思った。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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