3月26日(火)『歌舞伎座昼の部を観劇』

3月歌舞伎座昼の部を観る。女鳴神、傀儡師、傾城反魂香の三演目。

最初は、女鳴神。鳴神の女版の趣向。鳴神尼を孝太郎、絶間之助は鴈治郎。鳴神の方は、絶世の美女雲の絶間姫が、鳴神上人を色仕掛けで落とすのが楽しい所だが、男女を入れ替えた女鳴神は、絶間之助が鳴神尼に色仕掛けで迫ると言うよりは、鳴神尼が、昔の愛人に似ている美男の絶間之助に、ほだされて、好きになって行くのが違う所だ。結婚しようと言う言葉に誘われて、酒を呑まされて、寝ている間に、滝にかかる注連縄を斬り、閉じ込められた竜神が空に登り、雷と共に雨が降ると言う展開。すまし顔の鳴神尼が、絶間之助を好きになり、ポーっとして表情が変わって行くところが楽しかった。孝太郎は美しさにかけ、鴈治郎はメイクで男前に見えたが、菊之助と幸四郎で見たいものだ。でも、やはりこの芝居、つんと澄ました高貴な鳴神上人を、雲の絶間姫があの手この手で、篭絡する方が楽しい。

傀儡師は、幸四郎が踊った。踊りには興味がなく、感想はなし。良く分からなかった。

続いて傾城反魂香。土佐将監閑居の場はよく演じられるが、今回は近江国高嶋館の場がかかった。狩野元信が自らの血で襖に描いた虎が、じっさいに飛び出して来て、敵を襲い、縄を食いちぎってくれるという、絵描きの奇蹟物語が登場。元信が、襖に虎の絵を描くところ、どんな仕掛けは分からないが、縄で結わえられている元信が、舌を使い、自らの血で襖に絵を描くと、ドンドン虎の絵姿になって行くところが面白かった。絵が完成するとすぐに、襖が開いて虎が飛び出してくる。二人が入った虎の動きが俊敏で、立ち回りをしたり、逆立ちしたり、見得を切ったり、頭をなでたりと、観客を沸かせた。前の座席に座っていた外国人夫婦は、最初は貸し出された翻訳の機械を見ていて、舞台に集中していなかったが、虎が出て来てからは、大うけで、笑いっぱなしだった。狩野元信は、幸四郎で、美男振りに、悲壮感が加わって,被虐的な壮絶美を感じた。

土佐将監閑居の場は、お馴染みの舞台で、一声二顔三姿と評価される歌舞伎役者が、あえて吃音者を演じ、どうどもるかが見ものだ。私は、この芝居、吃音者に差別的な感じを正直持つが、歌舞伎演目の中には、盲目者を馬鹿にする芝居もあり、江戸時代に成立した芝居と言う事で、まあ問題にはしないでおこう。

さて、どもり。役者により工夫があるが、白鸚が演じる又平は、終始うつむき加減で、暗い表情。取り立てて演技しているようには見せないで、将来に先行きの無い絶望感、言いたい事をはっきり言えない、どもりのもどかしさを感じさせた。猿之助の女房おとくは、花道で、又平の手を引き歩く加減と、ときおり又平を見る視線で、夫への愛情をみせて、いい出だった。

前回見た時の猿之助のおとくは、どもりの夫に対して、饒舌で、はしっこささえ見せ、夫にかわり、ドンドン話を進めて、手ごわい女房と言う印象を持ったが、今回は一歩引いて、土佐の苗字が欲しいと、夫に代わり懇願するところは、切実で、夫への愛情の発露である事が分かり、夫婦の情愛の深さを感じた。又平が石碑に絵を描き、戻った時に、しっかりと筆を握り、放さない場面、丁寧に又平の指を擦って緊張をほぐし、筆を手から離す辺りにも、夫への愛情の深さを感じさせた。又平の手を擦っているように見えるが、実は自分の別の手を擦る演技だが、遠くから見ていると、夫の掌を温めているように見え、かなり長時間擦っていたので、あくまで演技ではあるが、愛情を強調するあたり、猿之助は上手いと思った。猿之助は、出る所、引くところ、うまく演技するので、違和感なく、自然に観られて、無理がない。今日のおとくだと思った。

白鸚の又平、どうどもるか、どもりを得意になって演じる役者が多い中、どもりを無理に演じないで、自然に演じていた。ヘッドボイスだけどもって、後は不通に流すやり方は、自然でいいと思った。言葉が出ないもどかしさを苦渋の顔の表情で表していた。どもりは、口ではどもるだけでなく、演技でカバーできるのが良く分かった。見事、手水に描いた自画像が反対側に抜けて、土佐姓を許された後は、打って変っての大喜びとなったが、とにかく暗い芝居、最後は明るく舞を舞って、目出度し目出度しで良かったと思う。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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