2018年1月14日(日)『新春浅草歌舞伎,午後の部、引き窓』
浅草公会堂の新春浅草歌舞伎を観に行く。浅草は、以前から正月は、将来の歌舞伎界を担うであろう若手、花形を集めて公演を行うのが常である。
亡くなった勘三郎と三津五郎も浅草で歌舞伎をしたし、海老蔵、勘九郎、七之助も浅草で活躍した。今回は、尾上松也を座頭役に、巳之助、種之助、隼人、米吉、新吾、梅丸、更に歌女之丞と錦之助が加わった。
はっきり言って、学芸会のような時もあるので、浅草の歌舞伎は、あまり期待はできないが、今回は、松也の長五郎を観に行きたかったので、操り三番叟、京人形はパスして、引窓だけを見た。
引き窓は、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)の一部、八段目で、二段目の角力場(すもうば)と並んで、独立して、見取り公演されることが多い。今月は、歌舞伎座で、角力場が演じられている
引窓は、家族の義理と人情を描いた一幕で、日本人なら、ぐっと来る場面を連ねた人情劇である。
時は9月15日、十五夜の前日である。京の岩清水八幡宮にほど近い山里に、南与兵衛一家が暮らしている。主人の与兵衛と、お早とは新婚で、義理の母のお幸と共に、幸せな生活を送っている。ここに、四人を殺し、逃亡中の濡髪長五郎が、母に会うためにやってくる。
ここで、親子関係を整理すると、お幸と長五郎は、実の親子関係で、幼い頃に、他家に養子にやり、長五郎は、その後大阪相撲に入門し、大関までになり、人気の相撲取りに出世したが、殺人事件を起こし、4人を殺し、逃亡中である。母のお幸は、長五郎の父が亡くなると、南与兵衛の父と再婚したが、息子の与兵衛は、前妻の息子で、実子ではなく、義理の息子にあたる。お早は、遊女上がりの女、長五郎は、実力トップの人気の相撲取りで、強い上に錦絵を抜け出たような美男力士である。南与兵衛は、殿様から呼びつけられ、父の跡をついで、南方十次兵衛を名乗り、代官に任じられ、刀と十手、紋付を与えられ、警察官の役割を任じられて、喜び勇んで帰宅する。
実子長五郎が、殺人事件を起こし、逃亡の最中、母を訪ねてやってくると、母のお幸としては、実子の命を助け、どこかに逃したい。ここに、一家の主で、義理の息子の与兵衛が、父の仕事の跡を継ぎ、代官となって、名を南方十次兵衛となり、今の警察官の立場として、お尋ね者の詮索に当たるのが初仕事になり、そのお尋ね物の似顔絵を手に、家に帰ってくる。義理の母としては、警察官になった息子に手柄を与えたい、でも実子は可愛い、逃してやりたい。義理の息子の与兵衛、あらため十次兵衛は、役目に忠実に、長五郎を捕らえたいが、逃がしたい義理の母の心情も分かる。長五郎も、逃げたい心もあるが、どうせ捕まるなら、母の再婚した家の主人十次兵衛に手柄をたてさせたい。
母のお幸からすると、実子と、義理の息子の間に挟まれて、心が揺れていくのである。そこに二人の息子への思いが重なり、義理と人情が揺れ動くというストーリーが展開されていく。日本人好みの情の世界だ。
母役の歌女之丞は、実子と義理の息子の間で、苦悩するが、この役は、田之助や東蔵クラスの女形が演じる役で、歌女之丞では役不足かなとは思うが、老け女形がいない今の歌舞伎では、彼に役が回ってくるのだろう。今回注目して観たが、歌右衛門の弟子であるせいか、重い感じがした。なにかおどろおどろしく、揺れに揺れる心のよどみが見られなかった。
私の注目は、松也演じる長五郎だったが、美男力士にぴったりだと思った。歌舞座の濡髪は、芝翫が演じていたが、この引き窓では、母に捕まる前に、一目会いたいという、母の愛に飢えている若者像でよく、好演していた。角力場での芝翫程重くはないが、引き窓では、二十台の美男力士は、美しい顔の松也にはぴったりで、にんに会った役柄だと思った。直情で、人情味があるところは、そのにん、姿形で、十分に見せられたと思う。角力場も、松也の長五郎でみたいと思った。
与兵衛役の、歌昇が、手ごわい侍と言うイメージを出さず、昔そこらへんにいたであろう、代官になったばかりの、若者を普通に演じていた。殿様から父の跡を継げと命じられ、紋付、刀二振、十手を渡され、意気揚々と、帰宅する時の演技、家にそのまま入ろうとすると、そうだ侍になったのだと、気を取り直し、声を掛けて家に入り、母や嫁の姿を見た時の,砕け方が上手いと思った。新妻お早との、痴話喧嘩めいた言い合いも可愛かった。更に良かったと思うのは、見得である。顔で見得をするのではなく、歌昇は、足をしっかり踏み込んで、小さな身体を大きく見せて決める。重心が低くなるが、安定感は崩れず、大きく見せて、かっこよかった。
松也の長五郎も良かったが、歌昇の与兵衛もよかった。若手花形の腕が上がった現在の歌舞伎を見て、楽しかった。米吉のお早は、元女郎のイメージはなく、可愛かったが、もっと色っぽくないと、義理と人情のドラマの、色添えには、ならないのではないかと思った。
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