2017年7月23日(日)『歌舞伎座七月公演夜の部、駄右衛門花御所異聞』

歌舞伎座七月公演の夜の部をみた。

演目は、通し狂言、秋葉権現廻船語、「駄右衛門花御所異聞」(だえもんはなごしょいぶん)で、松竹の宣伝では、奇想天外な物語だそうだが、どんな筋か、皆目見当がつかない。江戸時代に、七代目団十郎が演じた芝居の、復活狂言である。二百年以上再演しなかった、というのは、面白くなかったから再演しなかった訳で、国立の復活狂言は、面白くないのが定番であるが、歌舞伎座の復活狂言は果たしてどうであろうか、あまり期待はしないが、海老蔵と、その子供との二人宙乗りが見たいばかりに、チケットを購入して、観に行った。

日本駄右衛門は、白波五人男の首領で大泥棒だが、この名前を受け継ぐ駄右衛門が、大名の月本家から、家宝の紀貫之の自筆の古今集と、火伏の神『秋葉権現』の三尺棒を盗み出すと言う物語である。

三尺棒を振り回すと、死んだ人が甦ったり、金閣寺が炎上したり、中国雑技団の、飛んだり跳ねたり、派手で、賑やかではあるが、感動という言葉は、心に生まれなかった。

歌舞伎役者とは異質な、中国雑技団の猛スピードの宙返りや、バク転などの、曲技が披露されたり、海老蔵が、先代猿之助ばりに三役を早変わりしたり、金閣寺が炎上するように見える大掛かりな装置や証明の工夫など、その場その場は、面白く見せるが、筋は、あってないようなものだし、海老蔵ファンには、熱演また熱演で、嬉しかっただろうが、私には、時折、品のある美しい海老蔵を見ることはあっても、海老蔵が、目をひん剥いた顔を作れば作るほど、引いてしまった。

 決局、観客にとっては、海老蔵の息子の勧玄君との、親子揃っての宙乗りが一番の楽しみであり、ご馳走であり、眼目であって、この親子二人宙乗り以上の、シーンはなかった。時折、手を振って観客に愛嬌を振り撒いていた勧玄君がわいくて、隣に座っていた女性も,『海老蔵親子の宙乗りを見に来たので、筋は、どうでもいいのよ」と、笑って話していたが、ほとんどの人の声を代弁していたようだ。私も同じ思いだった。早くに、母を失った勧玄君の、この先の歌舞伎の世界での、大成を祈るばかりである。

 冒頭、月本家の若様と、傾城花月の駆け落ちが出るが、若様の巳之助、花月の新悟、ともに美しくなく、興味が半減する。ここは美男美女が出てきて、大名家の跡取りが、身を崩し、お家騒動になると言う、歌舞伎の導入の常道が効かない。

 海老蔵は二役を勤める駄右衛門と、兄に勘当をうけた弟の玉島幸兵衛との立ち回りと、早代わりがあるが、何時変わるのだろうという興味はあっても、長続きはせず、飽きてしまった。先代猿之助のように、早代わりで、客を驚かせるのなら、早い位が丁度いいのに、海老蔵の早変わりは、時間がかかりすぎて飽きてしまった。

 ところどころ、歌舞伎の別演目、仮名手本忠臣蔵の判官切腹、落人、伊勢音頭の福岡貢の場面を移した場面もあり、私は、面白かったが、知っていればともかく、知っていないと楽しめないのは、どうしたものだろう。

終わりも、今日はこれ切り、ということで、なにか途中で終わりになってしまう終わり方で、中途半端に感じた。海老蔵の、大奮闘公演ではあるが、熱演は熱演として、海老蔵親子の二人宙乗りだけに注目は集まった公演であった。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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