2017年6月3日(土)『歌舞伎座6月昼の部、名月八幡祭、浮世風呂、御所桜堀川夜討』

 歌舞伎座の昼の部で、名月八幡祭を観た。

 名月八幡祭は、池田大伍作、池田弥三郎演出の新作歌舞伎である。深川一の芸者美代吉に、越後の実直な商人新助がほれ込んで、翻弄された末に、新助は気が狂い、八幡祭りの夜、美代吉を殺害すると言う悲劇である。  

観終わって、何か疲れが残った舞台だった。筋は筋として、松緑が、どう見ても、実直な越後の商人に見えない、どこか不気味な雰囲気だったし、笑也の演じる美代吉は、とても伝法で、恋多き女で、セックス好きで、見栄っ張りな女に見えない事が大きな理由だ。笑也の米吉が全体的に硬く、芸者を演じるのがやっとで、その先の演技が未熟で、いらいらした。

この作品は、いったい何を語りたい舞台なのだろうか。新助と言う実直な商人が、芸者に騙され、気が狂った末に殺人を犯す物語なのか、美代吉と言う深川芸者の多情さが生む悲劇なのか、良く分からなかった。

物語は、美代吉という深川きっての芸者で、旗本の旦那もいれば、情夫もいて、あだっぽく、恋多く、色恋の中にどっぷりと奔放に生きている美代吉を、越後の実直な縮屋の新助がほれ込み、借金があり八幡祭りの準備で金が要る美代吉から100両を貸して欲しいと頼まれ、一緒に住むことを条件に、(結婚して越後に行き一緒に暮らしてもいいという事か?)、新助は請け合い、新助は、当初は、故郷の家屋敷田畑を担保に金を借りようと思うが、足元を見られ、100両で、土地田畑を売って100両を用立てる。美代吉の家に持参すると、100両の金は殿様が手切れ金として用意してくれたので、不要になったと、言われてしまう。新助は、故郷の田畑を売った金なのに、もう必要ないと言われても、帰る所もなく、一緒に住むと言う約束も、反故にされ、途方に暮れ、大泣きする新助。結局、この事で、気が狂った新助は、八幡祭りの夜、美代吉を殺害してしまうという筋である。

この芝居、にんのない、松緑の生真面目な新助に肩を入れて観ることもでき、借金まみれなのに、見得を張り、情婦に金を工面してやる美代吉の笑也は、下手過ぎて、伝法な言葉も決まらず、色恋にも淡白に見え、まして気の毒な芸者には、到底見えず、どこを見て、楽しめばいいのか、本当に困ってしまった。結局情夫の船頭三次の猿之助の厭らしさだけが突出してうまく、色に金をせびる所、甘えさせると事、逆にあまえる所、新助を相手に啖呵を切る所も、爽快で、上手く、三次ばかりが目立つ舞台となってしまった。主役でもない三次の演技ばかりが目立っては、舞台が成り立たないように思うが。私は猿之助ファンなので、猿之助の演技力の高さを痛感して、良かったが、一般的には、困るだろう。

新助が美代吉を見染める舞台は、中央に住居があり、その左右、前面は、水の膜が張られ、掘割と言う設定、ここを船に乗った美代吉が、登場すると言う仕掛けは、涼しい気分にされ、とても素晴らしいと思った。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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