2017年5月6日(土)『歌舞伎座5月團菊祭五月大歌舞伎、昼の部、梶原平三誉石切、吉野山、魚屋宗五郎』

 歌舞伎座5月公演の、昼の部を観た。彦三郎襲名披露の興業だった。新彦三郎は、脇を固める

地味な役者だった。これまで30年近く歌舞伎を観てきたが、主役を張った舞台を見たことはない。浅草の花形歌舞伎にも、余り出演した事はなかったと記憶している。その新彦三郎が、梶原平三をやる。楽しみに観にいった。

 石切梶原は、團十郎、藤十郎、吉右衛門、先代猿之助、仁左衛門などで見た、團十郎亡き後は、吉右衛門の梶原が今日の梶原だ。彦三郎が、どんな石切梶原を演じるか注目して観た。

彦三郎の平三は、青年武士のりりしい仕切りという印象だった。姿勢を正して、持ち前の口跡を生かし、ぐいぐい引っ張っていく。吉右衛門の梶原が、平家を支える重鎮として、威風堂々と演じ、大庭三郎を軽くいなして、俣野五郎を叱責し、六郎太夫の父と母には、愛情を注ぐ、やり方だが、彦三郎は、青年武士として、きっぱりと仕切っていく演じ方だった。見得も綺麗に決まり、口跡が、素晴らしいので、舞台が大きく感じた。最後に、水鉢を切り、真っ二つにして、藤十郎型だと思うが、切った石を跨いで、決まった処が綺麗だった。歌舞伎に、新しいスターが誕生した瞬間だった。

 吉野山は、菊之助の静御前、海老蔵の忠信、美しい二人の夢の舞台だが、義経千本桜の中では、どういう事のない、山のない幕なので、それ以上の感激はなかった。

最後が、菊五郎の魚屋宗五郎。これまで様々な芝居を観てきたが、よくできた芝居である。さすが、河竹黙阿弥の作品である。菊五郎、一代の当たり役である。團十郎、幸四郎、仁左衛門、勘三郎、勘九郎、様々な役者で観てきたが、時代物役者が演じると、酒に段々酔って行くところが、嘘っぽくて、技巧的で、それが芸だなんていうが、菊五郎は、世話物を得意としているので、酒に酔うシーンを、普通に、いかにも酒好きな魚屋が、呑んでいくうちに、酔い、酔うと怒りを爆発させていくところが、うまい。自然で美味い。作為を感じず、本当に酔っているように見えるのが、素晴らしい。芸とは、こんな事を言うのだと思う。

前半部分で、殿様の文句を言いに行けと、たきつける父に、御恩になった殿様に、文句など言えない。世話になった殿様だ。我慢するしかないと、父や妻を説得する所も、いかにももっともらしく、江戸の魚屋と言う感じがする。禁酒を解き、酒の酔に怒りが増して来て、さっき父を諭した事と違う事をしていく宗五郎。

元々宗五郎は、立派な町人ではなく、棒手振りをしている、大酒の呑みの街のあんちゃん魚屋だ。この江戸時代の市井に住んでいる魚屋らしく見える所が、菊五郎の芸なのだ、笑わせ、泣かせて、楽しい時間が過ぎて行った。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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