2017年5月3日(水)『歌舞伎座5月興行夜の部、壽曽我対面、伽羅先代萩、弥生の花浅草祭』

 今日から五連休、サラリーマン時代は、楽しみだったが、今では、5連休は、当たり前なので、嬉しさも中位である。今日は、五月の歌舞伎座、夜の部を観に行く。「団菊祭五月大歌舞伎」、と銘打って、今月は、七世尾上梅幸二十三回忌、十七世市村羽左衛門十七回忌追善興行で、初代坂東楽善、九代目坂東彦三郎、三代目坂東亀蔵襲名興行でもある。梅幸も羽左衛門もこの目で、舞台で活躍している姿を、見ているので、懐かしい。もうそんなに時が経つのかと、驚くばかりである。團菊祭は、團十郎と菊五郎の祭りであるのに、團十郎が、すでにこの世にいないのは、寂しいことだ。息子の海老蔵がこの分を埋めている。

 坂東彦三郎襲名興行ではあるが、独立した襲名口上の幕はなく、何か地味な感じがした。彦三郎の名前は、江戸時代からある、由緒正しい名前だが、今回彦三郎を息子に譲った楽善が、地味な人で、人気役者ではなかったので、彦三郎の名跡が大きくはならず、今回の襲名も、地味になった感じだ。楽善は、父の羽左衛門の名前も襲名できなかった。楽善の気持ちはいかばかりであろう。当代の彦三郎が、名前を大きくして、羽左衛門を襲名をするしか道がない様だ。羽左衛門は、こうして忘れられた名前になる可能性もでてきた。

 夜の部は、壽曽我対面、伽羅先代萩、弥生の花浅草祭、の見取り公演である。

 「壽曽我対面」。祐経は菊五郎、曽我五郎が彦三郎、朝比奈を楽善、小藤太を亀蔵が勤めた。彦三郎の息子が亀三郎を襲名し、鬼王家家臣亀丸が初舞台となった。新彦三郎は、亀三郎時代から、口跡の良い人だったので、力強く、男っぽい五郎役は、ぴたりで、持ち役になりそうな気がした。足を伸ばしてのミエが、得に綺麗に決まったと思う。十郎の時蔵の柔らかさとの対比が上手く運び、十郎の力強さが強調されたと思う。菊五郎劇団では、荒事は松緑の専売のようだが、そのうち彦三郎が、奪うかもしれない。荒獅子男之助も、彦三郎で見てみたいと思う。楽善も、朝比奈を、元気いっぱいに努め、息子たちを引き立てていた。

 伽羅先代萩は、御殿、床下、対結、刃傷の三幕四場の、一応の通しだが、御殿では、前半の飯炊くき(ままたき)はなし。舞台は、乳母政岡が中央、上手に鶴千代、下手に実子千松が座っている所から始まる。すぐに栄御前が来る段取り。栄御前のお土産のお菓子を、息子千松が食べて、苦しんでいる所で、八汐に殺されるが、この間政岡は、顔色一つ変えず、様子を見ている。この政岡の表情を、栄御前も見ていて、取りかえ子をして、実は主君の鶴千代を殺したと判断し、味方と思い込んで、連判状を渡してしまう、と言うお馴染みの展開である。  

政岡は菊之助、飯炊きがないので、政岡が、いかに苦労して、主君鶴千代の命を守っているかが描かれず、観客として、政岡の気持ちの中に入って行けず残念だった。主君と息子への愛情を見せる、見せ場がないので、菊之助も気の毒だった。結局、いつもクールな菊之助が、やはりクールで、実子の千松が毒の入ったお菓子を食べ、苦しみ八汐に刺されて。殺された所を見ていても、主君を守るためなら仕方がないように見えて、八汐達がいなくなって、我が子の死に慟哭するシーンが活きなかった。飯炊きは、茶道具で、飯を炊くと言う浮世離れした話が延々続き、長たらしい展開で、飽きが来るので、睡眠タイムになりがちであるが、飯炊きがないのは、政岡に、感情移入できない分、不十分で、これでは、通しにはならないと思った。政岡もどう演じていいのか分からなかったのではないか。こうして御殿は、一通りのに終わる。歌六の八汐も、一通り。栄御前は、魁春だが、悪の気配は全くなし。

 床下は、荒獅子男之助が、いつもの松緑の、いつもの元気よい演技、別にいう事はなし。メイクが濃いから、ブサメンが目立たず。仁木弾正は海老蔵、目が効いてて、不気味さが漂うが、それでいて端正で、今日の仁木弾正だと思った。

 対決は、海老蔵が悪を強調するため、低音の迫力で台詞を言う。ふてぶてしい弾正だが、国崩しの悪党のイメージには遠い。一番感心したのが、梅玉の細川勝元、捌き役で、儲け役なのだが、軽い感じで入り、段々弾正を追い詰めていく、じりじり感が気持ち良かった。勝負あってから、声を高め、明朗闊達に、セリフを語る所は、梅玉の魅力が出て、良かった。同世代が次々に死んでいき、先が楽しみだった勘三郎、三津五郎が死んで、彼らの持ち役になるだろう役が、梅玉に来るのだろう。高年齢になって、次々に役が降られ、これまでの芸の蓄積で、楽々こなす梅玉は注目だ。歌右衛門亡き後の雀右衛門を思わせる。やる気のない役者の代表的な存在だと思っていた梅玉が、こんなに素晴らしい活躍をするなんて、考えもしなかった。自然と、梅玉ファンになっていく自分が、不思議だ。

 刃傷は、海老蔵の眼がらんらんと輝いて、狂気を出し、所々のミエが決まり、らしかった。

 鼻水が、今日に出てきたので、弥生の花浅草祭は、見ずに帰る。