2016年12月21日(水)『歌舞伎座12月1部、あらしのよるに、松也可愛い』

歌舞伎座、12月の一部は、「あらしのよるに」、新作歌舞伎である。きむらゆういちの絵本を新作歌舞伎に仕立てた、昔の菊五郎劇団の木下順二の民話劇のようなものだった。人間が出てこない舞台で、嵐の夜に、真っ暗な山小屋に、山羊のメイ(松也)が避難している。そこに狼のがぶ(獅童)が避難してくる。闇の中、お互いが、山羊なのか狼なのか分からない、外は嵐、時折雷の音が鳴り響く。暗闇の中で、お互い抱き合いながら、一夜を過ごした。そして、「嵐の夜に」を、合言葉に再開を約束する。再開した時、漸く二人は、お互いが、山羊と狼という事を知る。弱肉強食の動物の社会の中では、山羊は、狼の餌になる存在である。ともに雷が嫌いで、がぶは、狼の中でも体が弱く、優しい性格だ。二匹の動物に、友情が生まれる。獅童のがぶが、狼を、笑いを取りながら、上手く演じて、観客から大きな拍手をもらっていた。メイの松也も、性別は不明だが、可愛く、可愛く演じていて、愛らしかった。

と、ここまではいいのだが、狼の群れの統領が、がぶの父親で、この父親を、ガロ(中車)が殺し、統領の座を奪う。このガロが、がぶと、メイ、を徹底的に追い詰めるのだが、何故執拗に追い詰めるのかは描かれていないので、よくわからないのだ。ストーリー展開が、何故だか分からないので、共感できないまま、話が進んでしまう。民話劇は、もっと簡単なストーリーでいいのではないかと思うが、絵本が、楽しい歌舞伎になったという事で、良しとしようか。歌舞伎役者たちの、自由なセリフ術が素晴らしいと思った。歌舞伎役者は、女にもなれるし、動物にもなれるのである。