2016年12月6日(火)『文楽仮名手本忠臣蔵の第二部を観る』

 国立劇場小ホールでの、文楽の第二部を観た。午前中から歌舞伎の仮名手本忠臣蔵の第三部を見て、4時半から、文楽の第二部を観た。相当ヘビーで疲れた。

 文楽は、七段目の祇園一力茶屋から始まった。最初に、斧九大夫と鷺坂伴内が、一力茶屋に入る。由良之助が、本当に、討ち入りするのか、あるいはしないのかを確かめるためだ。さすが元家老の斧九太夫で、ぬかりはない。文楽は由良之助が舞台に出る前に、仲間の3人の武士が訪ねてくる。由良之助の遊興振りは、3人の武士が諫める所、お軽が、手紙を読んで、討ち入り計画を知り、それを知った兄の平右衛門がお軽を殺そうとするところ、殺す、すんでのところで、由良之助が止めに入り、平右衛門に江戸までの道行を許すところは、歌舞伎と同じである。歌舞伎では、由良之助がこの幕の主役になっているが、文楽では、平右衛門が、この段の主役で、舞台中央で、強く大きな動きをして大活躍している。平右衛門だけを語る大夫が、舞台下手に座り、セリフも語るのが文楽独特で、楽しかった。豊竹咲甫太夫は、大熱演で、感動した。この他、斧九太夫が、由良之助に蛸を食べさせたり、軒下で、手紙を読んだり、お軽に殺されたりするところは、歌舞伎も文楽も同じだった。

八段目の道行旅路の嫁入りは、歌舞伎ほど長くなく、あっさりしている。人形では、踊りは長く演じるのが難しく、文楽人形を操る人間に、無理がかかるからだろう、逆に歌舞伎では、女形二人に重要な役割を与えられるのでやたら長い。花形の女形が、小浪を演じれば、ベテランの女形が戸無瀬を演じられるので、好都合なのであろう。女形も、力が入った踊りになるのだと思う。女形2人に、魅力があれば、うっとりとするのだろうが、そうでなければ、辛い。

 九段目の雪転がしの段。由良之助が祇園から帰る所で、一力の人間が雪だるまを作りながら、由良之助宅にやってくる場面。雪だるま、雪の玉が、この後の山科閑居の場で、死を予感させる、五輪の塔をイメージさせる。歌舞伎では、めったに出ない幕であるが、文楽では演じられた。私には、雪だるまが膨れるように、悲劇の輪も膨らんでいくように感じて、作者の意図をあれこれと考えさせられた。

続いて山科閑居の段、文楽と、歌舞伎では、ほとんど同じである。家老の両家に訪れた悲劇が、舞台上に爆発し、観客の涙が溢れる所である。由良之助の家に、戸無瀬と、小浪が訪れ、許嫁の小浪と力弥と結婚させて欲しいと頼む。由良之助の妻、お石は拒絶する。「本蔵の首を差し出すなら、結婚させよう」、と言う。思いつめた戸無瀬は、義理の娘の小浪を殺そうとするが、ここで虚無僧が現れ、止める。虚無僧は本蔵だった。本蔵が、判官と、由良之助の悪口を言うと、大石の息子、力弥が現れ、本蔵を槍で刺す、刺された後、本蔵は、本性を表す。ここに由良之助が来て、二人の結婚を許し、本蔵が、吉良家の屋敷の見取り図をプレゼントしてこの幕は終わる。判官の短慮さえなければ、家老同士の結婚で、力弥と小浪は結婚し、幸せな人生を歩んだであろう。馬鹿殿の短慮で、両家の幸せは、もろくも崩れた。由良之助も本蔵も死に、力弥も死に、小浪は一晩だけの夫婦生活で、死に別れる。ここでも、一寸先は闇、人間、明日はどうなるか分からない。先が見えない、この世の不透明性が、観客の心を打つ。まさに明日は、我が身なのだ。

十段目は、天河屋の段、天河屋義平は男でござる、はほぼ歌舞伎も文楽は同じ。

 十一段目は、花水橋引揚の場。文楽では、戦闘場面は一切なく、吉良の首を取り、花水橋に来た時に、若狭之助が、馬に乗りやってきて、討ち入り成功を喜ぶシーンだ。舞台には、6人の侍が並ぶだけ。あっさりしている。

最後の最後に若狭之助を出してくるのは、どういう意味があるのか、考えさせられた。もしかしたら、判官と若狭之助が入れ替わっていたかもしれない。若狭之助に、「自分が判官と同じ運命にある」、と発言させたことで、人間の運命は、どうなるか分からないという事を暗に、作者は言っていると思う。由良之助は、心の中では、若狭之助を、どう見ていたのであろうか。判官、若狭之助ともに、短慮の殿様として描かれているが、こうした主人を持つと、どの道、家来は、苦労すると言う、家来の立場の辛さが、濃厚に描かれていて、観客の共感を得たのではないかと思った。

 今回の国立劇場開場50周年記念の、歌舞伎と文楽の通しを観て、それぞれの仮名手本忠臣蔵を比べてみる

文楽                  歌舞伎

大序   鶴が岡兜改めの段       大序   鶴ケ岡社頭兜改めの場

     恋歌の段

二段目  桃井館本蔵松切の段      二段目  桃井館力弥使者の場 

同 松切の段

三段目  下馬先進物の段        三段目  足利館門前の場

     腰元おかる文使いの段          同 松の間刃傷の場

     殿中刃傷の段              同 裏門の段

     裏門の段

四段目  花籠の段           四段目  扇ケ谷塩谷館花献上の場

     塩谷判官切腹の段            同 判官切腹の場

     城明け渡しの段             同 表門城明渡しの場

                    浄瑠璃  道行旅路の花婿

五段目  山崎街道出会いの段      五段目  山崎街道鉄砲渡しの場

     二つ玉の段               同二つ玉の段

六段目  身売りの段          六段目  与市兵衛内勘平腹切りの場

     星野の勘平腹切りの段

七段目  祇園一力茶屋の段       七段目  祇園一力茶屋の場

八段目  道行旅路の嫁入        八段目  道行旅路の嫁入

九段目  雪転がしの段         九段目  山科閑居の場

     山科閑居の段

十段目  天河屋の段          十段目  天河屋義平内の場

十一段目 花水橋引揚の段        十一段目 高家表門討ち入りの場

                         同 広間の場

                         同 奥庭泉水の場

                         同 柴部屋本懐焼香の場

                           花水橋引揚の場

鈴木桂一郎アナウンス事務所

ニュース, ナレーション, 司会, 歌舞伎, お茶, 俳句, 着物, 元NHKアナウンサー