2016年11月23日(水)『11月歌舞伎座、昼の部、盲長屋梅加賀鳶だけ見る』

新芝翫襲名興行、11月歌舞伎座の昼の部の最後を、一幕見で見た。先日昼の部を観た時に、別件で約束があり、観ることができなかったので、勤労感謝の日で休みになったので、幕見に行った。新しい歌舞伎座になり、初めて、4階席の幕見席に行く。エレベーターで、4階まで行けるので、大変便利である。これなら80歳になっても、利用できそうだ。私の番号は120番で、4階で、新たに番号順に並ばされ、90番までが、着席できるが、後は立ち見だと、あらかじめアナウンスがあった。1時間半も立ち見は辛い。入場すると、ただ1席、空席を見つけたので、迷わず、そこに座った。

 昼の部最後の出し物は、幸四郎の盲目長屋梅加賀鳶、通称、加賀鳶である。幸四郎が、梅吉と道玄の二役を務める。筋はどうという事はない芝居で、喧嘩の仲裁に入った鳶の頭の梅吉の、気合いのこもった説得、頭としての男の力量,貫録をみせ、加賀鳶の面々が、花道にずらりと並び、渡りセリフを、次々に、五七調で、語るあたりが見どころか。そして按摩の道玄の悪党ぶりを、これまでもと、見せる芝居が続き、颯爽とした鳶の梅吉と、極悪非道でありながらどこか抜けている按摩の道玄の二役を、幸四郎が、どう演じ分けるのかが、楽しみな芝居である。私は、特に幸四郎ファンではないのだが、幸四郎の悪党ぶりが楽しみで、わざわざ見に行ったのである。

幸四郎も70歳を過ぎて、颯爽とした、男盛りの梅吉は、年齢的に難しくなっているのか、粋の良さが、伝わらない。一言で言えば、江戸ッ子らしくないのである。口跡がすっきりしていなくて、だるくて、颯爽とした鳶の頭に見えない。もっとハイトーンで、力強く、きちっと台詞を言わないと、聴いているこちらの方が、爽快感を持つことが出来ない。まだ松蔵の梅玉の方が、ニンではないが、頭としてハイトーンでたたみかけ、しっかりしている。

ただ二役の按摩の道玄になると、セリフを言うのに、本人が楽しんでやっているところが多々あり、がぜん面白くなってきた。幸四郎は、言葉の変化技がうまい。高音で語ると、言葉の最後を,落として低音でしゃべったり、セリフが、平面でなく、道玄と言う悪党が、本当に話しているように聞こえる。立体的に聞かせる芸の技である。

情婦のお兼は秀太郎、この二人で、強請りに行くところは、一番面白い。コミカルさもあり、強請の言葉の数々、駆け引き、強請りに来て、100両を要求し、番頭に50両に値切られ、金をもらう寸前で、松蔵がやってきて、仲裁に入り、娘が主人に犯されたと記した手紙と、手習の筆使いを見比べ,真筆ではないと、嘘だと見破られた所の、道元の驚きが可笑しかった。更に、お前が、水道橋で殺人事件を起こした犯人であろうと、道玄が殺人現場に残した紙入を突出されてからの、慌て振りは可笑しかった。結局10両もらって帰るのだが、人殺しの証拠を突きつけられたら、もっと驚いて、ほうほうの体で逃げ帰る、と思うのだが、意外に落ち着いているので、少し変に思った。道玄の冷酷非常だが、どこか愛嬌のあるキャラクターを、上手く幸四郎が演じていて、楽しい一幕だった。隣のアメリカ人のカップルも、逮捕劇のところは、可笑しくて、笑っていた。私も、道玄が捕まるまで、大いに笑わせてもらった。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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