2016年8月10日(水)『新橋演舞場、歌舞伎ミュージカル 松也出演の狸御殿』

 新橋演舞場で、和製ミュージカル、「狸御殿」を見た。別にミュージカルに興味があった訳ではないし、芝居そのものを観たいというのではなく、主役の尾上松也が、どうミュージカルの中で、俳優として、歌手として演じているのかを、見に行ったのだ。

荒筋は、狸御殿で、松也扮する若君、狸吉郎(たぬきちろう)の花嫁選びを兼ねた盛大な満月祭りが開催される。母は、十六夜姫を進めるが、気が進まない狸吉郎は、祭りを抜け出し、森の中で、美人のタヌキの娘「きぬた」を見染めてしまう。しかし、名前も知らない二人が、めでたく結婚する事ができるのだろうか、という筋で、最後は、お決まりの目出度し目出度し、二人ならぬ二狸は、カップルとして成立、めでたく結婚となるのである。

ごった煮で、派手で、賑やかな舞台であった。きぬたが落とした草履で、シンデレラの靴探しをもじった花嫁探しが行われ、白鳥の湖ならぬバレエも出てくる、オペラさながらのアリアも聴こえる。チャンバラもある、集団の日本舞踊もある、リオを意識したのか、サンバのリズムの踊りもある、笑いを掴もうと、落語家やオネエさん風の出演者が登場し観客を笑わせる。これでもかこれでもかと、様々な仕掛けを施して、観客を楽しませようという意図は感じるが、出し物すべてが、チープで、笑いが、薄っぺらいのである。戦前人気だったという狸御殿物の現代版なのだが、戦前に生きた人々にとっては、歌ありコメディありと、当時にしては、ゴージャスなエンターテインメントだったのだろうが、今は、海外のオぺラやオペレッタ、バレエ団が来日し、本物の豪華な舞台を見られるし、ほかにも、エンターテインメントが充実しているので、今の日本人は、目も耳も肥えてしまっている。こうした時代背景の中の、狸御殿である。奇抜な衣装、電飾、高校生レベルの歌で、繰り広げられる安っぽい舞台では、満足度は極めて低く、はっきり言って、二度見る勇気はない。

注目の松也は、18歳の役で、元々綺麗な顔立ちであるから、30歳を超えても、まだまだ前髪姿も美しく、若衆が、とても似合う。歌舞伎で美しい顔の持ち主と言えば、海老蔵、染五郎、松也が、代表的だが、その中でも、松也は、若さもあり、憂いもあり、中性的な魅力を持ち、今一番の美しい顔の持ち主であると私は思う。30歳を超えていても、白塗りの前髪姿が似合うというのは、梅玉路線にまっしぐらではあるが、私は、そうはなって欲しくない。猿之助に並んで、脅威の若さを見せ付けられる松也、歌舞伎俳優としても、猿之助に負けぬ、エネルギータップりな役者になって欲しい。

松也ファンであるから、あえて書くが、松也は、惚れ惚れする美しさで、時分の美を持っている思うが、表情に変化がなく、見せる顔は、劇画調の顔で、自然な表情がなく、いつも人工的に顔を作っているように見える。顔のメイクが濃すぎて、顔の表情を消してしまっているように見えて、残念だった。松也のメイクは、まるで大衆演劇の役者のように、のっぺりとしていて、顔に陰影がない。しかも顔の表情に変化が乏しい。松也は、セリフ回しにも難がある。高校生演劇レベルで、言葉が整いすぎて、言霊となって、心に響かない。顔が綺麗で、大衆の心を掴んでいるうちに、数々のマイナス部分を補強し、克服しないと、将来海老蔵とともに、歌舞伎を支える役者にはなれないだろうと、強く感じた。松也ファンだから、あえて言うが、こんなくだらない狸御殿や、新派への出演は、松也の得にはならないように思う。歌舞伎に専念するべきだ。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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