2016年8月12日(金)『歌舞伎座8月歌舞伎第三部、土蜘と廓噺山名屋浦里』
歌舞伎座の8月納涼歌舞伎を観にいく。8月は、三部制で、今日は、第三部を見た。河竹黙阿弥作の、「土蜘」と、新作歌舞伎の「廓噺山名屋浦里」の二本立てだ。
土蜘は、松羽目舞踊の大曲で、明治14年に初演された。能の土蜘蛛を元にした作品だ。源頼光に僧の智籌(ちちゅう)がやってきて、病を払うと言うが、怪しいその姿に、頼光を切りつける。その血潮を頼りに、平井保昌と四天王は、土蜘蛛退治をする、というストーリーだ。松羽目の舞踊大曲というが、正直言って、私には、興味のない作品だ。
主役の僧の智籌は、僧としての品格と、土蜘蛛の不気味さを出から見せないといけないし、土蜘蛛の精になってからは、大きさを見せないといけない。橋之助は、土蜘蛛の精になってからの、不気味さを、楷書で出していたと思う。保昌は獅童、頼光を七之助、番卒に勘九郎、猿之助、巳之助が絡んだ。悪いけど、愉しかったのは、番卒の勘九郎と、猿之助、巳之助の絡みだった。3人が、コミカルな演技をさらりと、演じていた。石神は、勘九郎の息子の波野哲之が演じ、可愛かった。本筋より、メイクの場つなぎの場面が、面白かったというのは、皮肉だ。
新作歌舞伎の「廓噺山名屋浦里」は、笑福亭鶴瓶の新作落語、山名屋浦里を、舞台化した喜劇である。ある藩の江戸留守居役を務める酒井宗十郎は、同じ留守居役仲間の宴会で、次の宴会では、それぞれ江戸で抱えている遊女を連れてくることを約束される。堅物の宗十郎には、そんな知り合いの遊女などはいない。たまたま船に乗っていた遊女浦里を知った宗十郎は、山名屋に出向き、浦里を宴席に連れて行きたいと、主人に申し出る。主人は断るが、この話を聞いていた浦里は、宗十郎のいちずな気持ちを察して、宴席に行く事を積極的に、申し出た。留守居役仲間の宴会で、突如現れた傾城浦里の出現に、全員驚くという芝居である。世話物の喜劇である。
高級娼婦たる、遊女の最高峰の揚巻である浦里と、浅黄裏と馬鹿にされる堅物の留守居役との人情の触れ合い、交流が、眼目で、宗十郎を勘九郎、浦里を七之助兄弟が演じた。実際に遊女を売り買いするのが商売の置屋を舞台に、こんな荒唐無稽な話が起こるはずはないが、まあ、大人のロマンであろう。堅物の宗十郎を勘九郎が、手堅く演じ、遊女浦里を七之助が、いつもはクールな演技なのに、今回は、情を厚く見せる熱演を見せた。特に、遊女の言葉から、ガラッと育った田舎の言葉に代わり、情をたっぷり聞かせ、又遊女の言葉に戻る所が上手い。セリフに熱を感じた。決して幸せではなかった少女時代、売られて置屋に来てからの苦労を語る。今を時めく浦里ではあるが、その裏には、悲しいほどの記憶が、体と共にあるのだ。花魁道中をする七之助の浦里の笑顔に、美の裏側の暗い面を垣間見た。
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