2016年6月18日(土)『歌舞伎座6月第一部、染五郎の知盛、猿之助の典侍局』
11時開演の歌舞伎座には、間に合わず、11時半の到着となった。義経千本桜の渡海屋と、大物の浦。染五郎の知盛、典侍局が猿之助、天皇が、右近の息子が初舞台である。
染五郎の知盛を観に行ったのだが、猿之助の典侍局が、素晴らしく良くて、知盛以上に印象に残ってしまった。ワンピースなどで、従来の立ち役を超えて大活躍の猿之助典侍局。女形としても、先日見た元禄○○の女形、お蔦でも、影のある女性を好演していた。亀治郎時代からファンである私としては、女形としての魅力を以前から感じていたが、女形でも難しい、どちらかと言えば地味に悲劇的な、安徳天皇の乳母であるを、どう演じるか、正直あまり期待しないで見に行ったのだが、どんどんと引き込まれてしまった。猿之助の、乳母にも、悲劇性があり、大袈裟とも思える役作りが、逆に心を打ち、典侍局を、こんな風に演じると、舞台の主役の一人になれると思った。典侍局が、知盛に並ぶ、主役級の役と、今日初めて気がついた次第である。
銀平女房のうちは、さしたる感じはなかったが、天皇を横に座らせ、知盛との受け答えになると、顔が引き締まり、舞台の中心に燦然と輝くようになる。酒を取りに行く時には胸を反らせて、畳をしずしずと進む姿には、天皇の乳母という矜持を強く感じさせていた。知盛との話には、視線鋭く聞き、相模五郎のご注進で、平家の危機感を感じ、船が沈み平家の敗北が決定的になっての嘆き、投身自殺を決心し、天皇に「海の底にも、極楽がある」と、嘘を言わないといけない哀しみ、平家、安徳天皇、そして自分に襲いかかる大きな悲劇性を、幕の場面場面で、大きく高めていく演技は、立派である。今月は、三部制で、最初にⅡ部のお里、二番目に、忠信、三番目に、典侍局の順番に、猿之助を見たが、三役とも素晴らしく、猿之助のこのところの充実ぶりに、驚くとともに、ファンの一人として嬉しかった。
一方の染五郎、三部の静を先日見て、女形としての上品さと、可愛さ、胸に秘める強さを見せて、驚いた。いや、元々、鼻筋が通った顔の綺麗な役者なので、女形も綺麗で当然なのだが、花形時代を通り越して、いよいよ中堅、トップを担う俳優となり、加役ではあるが、女形も十分に行ける可能性が出てきて、兼ねる役者になれる可能性を感じた。しかし肝心の立ち役は、線が細く、弁慶よりは富樫のイメージであった。今回の知盛は、どちらかと言うと、力がみなぎっている弁慶型の立ち役で、どう演じるか楽しみだったが、熱演は熱演だが、平家の武を代表する知盛の力強さが出たというと、残念ながら、そこまでは行かなかった様に思う。平家を滅亡させた義経への、恨み骨髄の憎しみ、その恨みを晴らすため、必死になる姿、義経に対する闘志、そして敗北、怒りから、諦めへの心の変化。心の変化は、強調されて、演技されていたが、怒りが、体全体に溢れておらず、錨を体に巻き付けての壮絶な自殺まで、呼吸が連続しているようには見えなかった。
初お目見えの右近の息子武田タケルの安徳天皇が、可愛くて、セリフがしっかりして、よかった。猿弥の弁慶は、堂堂としていて、立派。松也の義経は、品があり、結構でした。
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