2016年6月9日(木)『歌舞伎座六月公演第二部を観る、颯爽幸四郎のいがみ権太』

 歌舞伎座六月公演の三部制の、第二部を見た。今月は、義経千本桜の通し、公演で、知盛を染五郎、いがみの権太を幸四郎、狐忠信は猿之助という役である。

 第二部.「いがみの権太」、は、木の実,小金吾討死、すし屋の三つの舞台で、主役のいがみの権太は、幸四郎が務めた。

 幸四郎のいがみの権太は、初めて観た。出からして、強い武士のようだったら、嫌だなと思ってみたが、まず顔のメイクがとてもよく、錦絵から抜け出たようないい顔、しかも悪人面がとてもいい。悪人の顔はしていても、悪逆非道の大悪人ではなく、こすっからい、欲の深い、人をだますことなんか、何とも思わない小悪党の面構えだ。出からして、こいつ胡散臭い人だねと言う印象を持つ。しかし悪党悪党していなくて、柔らかく、会話も自然で、柔軟性のある芝居をしている。石を投げて、木の実を落とし、若葉の内侍、若君六代、家来の小金吾に拾わせて、木の実に集中させ、その隙に荷をわざと間違えて、一旦引っ込み、再登場して、金をせびり取る段取りは、軽く運んで、重くなく、小気味よい。いかにも小悪党だなと思わせる、だましのテクニックを見せる。幸四郎は、いつもこうした時に、時代物役者の強い顔が出てくるのだが、今回は、総じて軽く演じて、大成功だ。20両せしめる時の、最後の凄味は、強く出る、このあたりの自在さが、いつもの幸四郎らしくなく、素敵だと思った。言葉も明瞭で、いつもと違う、幸四郎の当たり役になると思った。

 小せんは、秀太郎、色気があって、元遊女らしくていい。子宝に恵まれていて、この子の成長だけが楽しみだったと思うが、その先に待つ、薄幸の哀れさが良く出ていた。

 二幕目は小金吾討死。ここは幸四郎の出番はない。小金吾は人気花形の松也、この人は出からして、悲劇の主人公がよく似合う役者だ。すでに木の実の登場からして、悲劇性をほのかに見せていた。美しい顔立ちの松也が、大勢の取り手に取りかこまれ、必死の立ち回りをし、結局、殺されてしまうのだが、動きがきびきびして、若者らしく、その故に、悲劇性を増していた。

 三幕目は、すし屋、お母さんから金をせしめる所は、さらっと演じている。世話物らしく雰囲気がいい。寿司桶を持っての二度目の出も、軽くていい。世話物だから、重く演じる必要はない。首実検にはいり、彦三郎の梶原平三とやりあうのだが、ここも梶原と喧嘩はしない。悪役であっても、軽く演じて、梶原を騙そうとするあたりがいいと思う。けっきょく梶原には、すべてオミトオシだったのだが、自分の思う通りに事が進んで行ったと思う権太の単純さが、逆に悲劇的だ。父に刺され、瀕死の重傷をおってから、真人間に戻ってから述懐も、素直に聞かせて、悲しみを誘った。総じて、軽さと所々の凄味が効いていて、幸四郎は、好演だった。大当たりである。

 猿之助のお里は、猿之助久し振りの女形で、色気があって、黄八丈が良く似合い、チョコチョコト動く娘っぽさ、寿司桶を受け取ってからの、手慣れた動きも、きびきびしていて、早く寝ようとすがる辺りは、おかしみも感じさせ、生娘のエロさもだして、才能全開の演技、一瞬にして、猿之助、ここにありという演技力で、舞台をさらった。 

第三部に狐忠信があるので、第二部は、いわば、お付き合い、御馳走だが、こってりとしたご馳走であった。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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