令和3年5月18日(火) 『歌舞伎座三部、八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)、湖水御座船。春興鏡獅子』

歌舞伎座の3部を見る。八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう)、湖水御座船、春興鏡獅子の二本。八陣守護城は、吉右衛門が出演のはずだったが、病気休演で、中村歌六が演じた。堂々とした正清だった。毒酒を飲まされたはずなのに、全く外からはそう見させない演じ方で、最後に船が回り、舳先を正面にして、少し咳き込み、懐紙を取り出し口に当てると、懐紙に血が滲んでいるので、漸く毒を飲まされて、体が異常なのが分かる。この幕だけだと、秀頼の命を救いたいと動いた、主思いの加藤清正が表に出てこない。でもさすが歌六は、吉右衛門にずっと付き合って、数年過ごしていて、吉右衛門の芸をよく見ているので、吉右衛門の芸を盗んでいてうまく清正の大きさを出していた。縁起でもないが、もし吉右衛門が亡くなったらと思うと、吉右衛門の芸を継ぐのは、歌六かなと思った。

もう一本は、春興鏡獅子。菊之助で、もう数回見ていると思うが、本当に奇麗な小姓弥生で、しかも安定感があった。菊之助は、観客におもねる事なく、表情を変えることなく、淡々と踊りを進めていく、決まり決りが奇麗で、ピリオドを確実にうって、怠さがない。腰を割った中腰と言うのだろうか、かなり無理な姿勢で踊るのだが、この重心の位置が安定していて崩れず、なんなくこなしていて、本当に安定した踊りだった。安定感と、女形としての美しさを兼ねて、春興鏡獅子を踊れるのは、菊之助しかいないのではないかと思った。まさに今の春興鏡獅子だった。獅子になった後半は、安定感がありすぎて、獅子の荒々しさに欠けていると思ったが、毛の降りも、勢いがあり、こちらも安定していたと思う。胡蝶の精は、菊之助の息子丑之助と、彦三郎の息子亀三郎が演じて可愛かった。