令和3年2月4日(木) 「2月歌舞伎座1部。本朝二十四孝の十種香と、泥棒と若殿」

歌舞伎座の2月公演の第一部を見る。本朝二十四孝の十種香と、泥棒と若殿の二本立て。平日なので、客足が悪かった。

長編の本朝二十四孝から、今回は十種香だけの公演。十種香は、全五段の長編作品の中で、狐火とともに、上演回数が多い舞台だ。

十種香では、魁春が、恋一筋の八重垣姫をどう演じるかが一番の見せ所となる。魁春の襲名披露の演目で、歌右衛門から厳しく指導を受けたはずである。八重垣姫は、女形の三姫のうちの一つで、女形には重要な役だ。許嫁の武田勝頼が切腹して死んでしまい、勝頼の絵が描かれた掛け軸を眺めながら、後ろ向きで、回向している場面から始まる。そこに本物の勝頼が、花作り箕作と名前を変えて、美しい裃姿で登場して、八重垣姫が、あまりに勝頼に似ているので、いきなり箕作を好きになってしまうのである。最初は、勝頼に似ていると思い好きになるのだが、途中から、実はそこにいるのは本物の勝頼と分かり、愛情が爆発し、自分の思いの丈を一途にくどくのである。この辺りを、魁春が、どう演じ切るか楽しみの舞台だった。

俗な表現だが、魁春の八重垣姫は、実に色っぽい。一度も会わずに死んでしまった許嫁の勝頼の画像を見て、菩提を弔う後ろ姿も艶っぽく、勝頼の画像に似ている箕作を見て恋心に火が付き、ちらっと箕作を眺める姿、死んだと思った勝頼が、いま生きてそこにいる分かった時に、数珠を落として、ニヤッと笑う顔の表情も色気が出て、ぞくっとした。後半勝頼と分かり、口説く場面でも、袖の動きが、恋が乗り移ったように生々しく、一途に勝頼を愛する女心が、ほとばしっていた。一瞬一瞬の恋の姿を、表情のみで、ここぞというところで、見せていく演技ではなく、芝居全体的を通じて、箕作そして勝頼に対する恋心が、メラメラと燃え上がっている演技だったと思う。

濡れ衣は孝太郎、八重垣姫の赤姫の衣装に対して、黒の衣装で、顔も薄く塗っていたが、もっと色気を出してもいい役だと思った。印象的には、八重垣姫より相当年上に見えてしまった。勝頼は、前髪姿の門之助、先代の猿之助時代には、前髪姿で、活躍していた門之助だが、久し振りに前髪姿の美形の侍を、歌舞伎で観た感じがした。60歳を超える門之助が、しれっと前髪姿を見せ、若い侍に見せるのが芝居である。長尾謙信は、錦之助、顔を赤く塗って、迫力があった。

もう一本は、泥棒と若殿。泥棒を松緑、若殿は、板東巳之助。巳之助は、終始、うつむいて演技をしていたが、愁いと哀しさを持って話す表情が、父三津五郎に似ていて驚いた。巳之助は、剽軽な役を振られる事が多いが、長い顔が、うつむき加減だと、端正な顔立ちに見え、父そっくりな表情もあって、三津五郎と重なり懐かしかった。父三津五郎が演じた、少し暗い精神を持った役が、これからは似合うのではないかと思った。泥棒は松緑、コミカルな演技にこれからの、松緑の路線を見た感じがした。