12月10日(木) 「歌舞伎座、3部「傾城反魂香4部、日本振袖始」

歌舞伎座の3部を見る。三部は、傾城反魂香の土佐将監閑居の場。お得を猿之助、又平を勘九郎。平成20年の浅草歌舞伎以来の顔合わせでの再演。

猿之助のお得は、4回全部見ているが、お得は、主人の又平を表に立てながら、しゃしゃり出て、ドモリの又平を助ける役回り。花道で、又平の先を歩きながら、夫を見る目の優しさ、本舞台に上がっての、又平への心使いは、そこに夫への愛情があるので、でしゃばるという感じは全くなかった。私は今回、猿之助の指の動きを注視して見ていたが、土産を置いた時の手の丁寧さ、硯と筆を借りた時の指の柔らかさ、切腹する場所を整える時に、羽織を地面に広げる時のしとやかさ、女形は、常に指先まで女を演じる必要が有るのだなと思った。指先の滑らかな動きだけで、夫、又平への愛情たっぷり見せてくれるおとくだと感心した。

又平の勘九郎、出から放心した様子で出て来て、呆けているのかと誤解するような、ぼっとした様子だった。後半は、土佐の名前をもらってからは、喜びが爆発して、颯爽さも出て来て、ドモリを忘れる朗らかに見える大活躍となった。暗い前半と、名前をもらってウキウキする後半との、差を付けるために、あえて前半を惚けたような演技をして、後半との差をつけるために力を貯めていたのだろうが、よく分からなかった。今回、土佐の名前をもらえなかったら、切腹する気持ちがあるのなら、その心をドモリでも出すであろう。自分はドモリだから言葉が出ないから、お徳に任せればいいという、単純な事ではないと思う。言葉を口に出そうとしても、必死になって話そうと思っても言葉が出ない、その苦しみの演技がなく、簡単にお得に、バトンを渡しているような感じがして、私は疑問に思った。更に、石に自分の肖像を描いて、後ろ側に浮き出る奇跡も、お得が最初は疑いながら、裏にうつったと確信しての喜びの演技に変わる複雑さな演技に比べると、勘九郎は、単純に驚くだけで、驚き方が、まるでテレビのドラマ風の大袈裟で、奇跡が奇跡であるようにはとても思えなかった。

お得の役は、十七代の勘三郎が、猿之助に、自分が又平を演じる時が会ったら、ぜひお得を演じて欲しいと言ったそうで、どこに勘三郎にそう言わせたかは分からないが、勘三郎は、気に入ったのだろう。私も、勘三郎、猿之助で、この芝居を観たいと思うほど、素晴らしいお得であった。令和のお徳は、これで猿之助と決まったと思う。

歌舞伎座の四部、日本振袖始を見た。岩長姫を玉三郎、稲田姫を梅枝、素戔嗚尊を菊之助。コロナ禍で、玉三郎が休演していたが、今日は玉三郎が出演した。玉三郎の岩長姫は今回で5度目になるが、5回全部見ている割には、印象に残らない芝居だった。美しい玉三郎が、終始顔をしかめて、演技している。人を食う八岐大蛇だから、奇麗な顔をできないのだろう。美しい玉三郎の苦しみに満ちた、怒りに溢れた表情は、それはそれでまた美しく、苦悶の美形の女形を見る楽しさを味わった。梅枝の稲田姫は、奇麗だが、しどころはない。梅枝の岩長姫もそのうち見られるだろうから楽しみにしたい。菊之助の素戔嗚尊は、これまた美形の貴公子然とした素戔嗚尊だった。菊之助の岩長姫も見たい。後半玉三郎は、最近お得意の鬼女のイメージの大蛇姿に変わる。化粧が怖くて、玉三郎と分からなくなるほどだ。蛇の玉三郎のかわりに美形に菊之助の素戔嗚尊が登場し、責められてこちらも苦悶の表情。美しい顔が、ひきつり、怒りに燃えて、様々に表情を変えて、こちらも美形の役者がいたぶられるシーンの連続で、女形、立ち役、ともに美形は、奇麗な表情だけが売りではない事が良く分かった。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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