11月19日(木)「歌舞伎座顔見世大歌舞伎、1部蜘蛛の糸宿直噺2部身替座禅」

歌舞伎座の顔見世大歌舞伎の1部と2部を見る。

1部は、猿之助の蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)。源頼光の土蜘蛛退治の舞踊劇。去年の10月の愛之助主演で、蜘蛛絲梓弓弦(くものいとあずさゆみはり)を見たが、1年しかたたないのに、同じような出し物がでて驚いた。今回も、病床に伏せる頼光を、土蜘蛛の精が様々に化けて襲うという設定だったが、愛之助は、小姓寛丸、太鼓持愛平,座頭松市、傾城薄雲大夫、蜘蛛の精と変化したが、猿之助は、女童喜熨斗、小姓澤瀉、番頭新造八重垣、太鼓持ち彦平、傾城薄雲実は女郎蜘蛛精と五変化して躍る。やはり女男と、交互に変わる方が趣向があって、舞台の変化もあり楽しい。坂田金時、碓井貞光の女房がでて、舞台が立体的になった。その二人が、笑三郎と笑也なのが嬉しい。坂田金時に猿谷が演じていたが、段治郎がまだ歌舞伎にいれば、薄い役だなと思って懐かしかった。

同じ変化舞踊ではあるが、愛之助と比べて、猿之助には愛嬌がある。最初に出てきた時の女童喜熨斗の愛くるしさと言ったらどうであろう。顔の筋肉を緩めて、童顔に見せる目の動きが本当にかわいい。傾城薄雲は、実にゆったりとして、視線までもが、ゆっくり動き、堂々とした花魁である。猿之助は、単に衣装、メイクを変えれば変化するのではなく、役の本質を掴んで、役になり切るところが素晴らしい。変化した姿が見破られた時には、それまでの柔和な目から剣呑な,鋭い目に変わる変化も素晴らしく、あっという間の40分だった。。

第2部、身替座禅。山蔭右京が菊五郎、妻玉ノ井は左団次。太郎冠者は権十郎。極めて安定感のある喜劇だ。菊五郎の恐妻振り、花子と会い、デレデレとなって帰ってくる花道の浮かれた様子は、もう完全に手馴れていて、一歩一歩歩く度に、会場から笑い声が溢れていた。少しオーバーアクション気味だが、奥さんに浮気に行くとは言えないから座禅で籠ると嘘を言い、配下の太郎冠者を代行役にして、座禅衾を被せ、出かける、一夜の逢瀬を楽しんで、色にのぼせて、デレデレになって帰ってくると、すでに奥さんに見破られてしまう。楽しい逢瀬を太郎冠者に嬉しそうに伝えるのだが、座禅衾を被っていたのは、奥さんだったという落ちで、恐怖の余りひきつった顔をしながら引っ込むという筋なので、オーバーな演技は当然で、問題はない。多少オーバーな演技を、ごく自然な誇張で見せて笑いを取るというのが、菊五郎の腕なのだ。玉ノ井の左団次も怖い奥さん役をオーバーに演じていたが、鼓の音に、顔が切り替わる演技は楽しかった。夫婦間の普遍的な問題を、楽しくて、可笑しく描いていて、あっという間の1時間であった。侍女千枝を尾上右近、小枝を米吉が演じた。右近は整った美形。米吉はあどけない美少女、二人の顔が奇麗で、見惚れてしまった。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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