10月8日(火)『歌舞伎座、芸術祭十月大歌舞伎、昼の部』

芸術祭10月大歌舞伎の昼の部を見た。廓三番叟,御摂勧進帳、蜘蛛絲梓弦、江戸育ちお祭り佐七の四本。正直に言って、お祭り佐七以外に、これを観たいと言う演目はなく、魅力に欠けた昼の部だった。

最初が、廓三番叟。五穀豊穣を祈念する三番叟を、舞台を廓に置き換えた長唄舞踊だ。今の時代、廓と言っても、行った事がないので、花魁や傾城がどんな姿をしていたかは、歌舞伎か映画でしか分からないが、傾城の衣装や髪型、髪飾りの様子が良く分かった。ゆうゆうと踊る傾城の扇雀は、気品があったが、8月の雪女郎とどこが違うのか、舞踊が分からない私には、首を傾げたままだった。新造は梅枝、太鼓持は巳之助。

御摂勧進帳は松緑が弁慶、愛之助が富樫左衛門。勧進帳と名前が付いているが、全くの別物。勧進帳の前に出来た作品だが、前半の、富樫と弁慶の芝居は、山がなく、平凡に見えた。後半弁慶が番卒の首を捩じ切って天水桶に投げ込み、金剛杖で、里芋の泥を洗い落とすようにかき回す所だけが見どころなので、この劇を何回か見ていると、おおらかと言えば、おおらかであるが、笑ってお仕舞である。番卒の首をラグビーボールに見立てて笑わすところは、面白くはあるが、いただけない。松緑の声がくぐもって、三階席からは、何を言っているか、分からない所があった。

三つ目が、蜘蛛絲梓弦。一人の役者が、五役を早替わりしながら踊る変化舞踊で、愛之助が、歌舞伎座で初めて演じた。前髪の小姓は綺麗だし、太鼓持ち、座頭、傾城、蜘蛛の精の五役早変わりは、ごく軽く、さらっと演じていて楽しめた。千筋の糸を、自由自在に操り見事だった。手に握った糸の種を投げつけると、ぱっと白い糸が伸びるように開くが、綺麗だった。一体、どんな仕掛けなんだろう。

四つ目が、今日の楽しみ、江戸育ちお祭り佐七。菊五郎が佐七を若々しく演じ、芸者小糸を時蔵も若く華やかで、歌舞伎には年齢があってないのが楽しい。鳶の菊五郎の、威勢の良い啖呵がスカッとするし、小糸といちゃつく所も余裕で、世話物の雰囲気を味合わせてもらった。世話物は、菊五郎が演じると、いなせな鳶は、実にらしくなり、男っぷりが良く、芸者にモテるだろうなと思わせる。演じているのだが、演じているようには思えないのが凄い。菊五郎本人の考えは分からないが、歌舞伎を芸術なんて思ってもいないように見える所がいい。菊五郎は、愛情深く、気が短く、直情径行な所を上手く見せた。お祭り佐七はこんな男だったと言う造形が鮮やかだった。でも、この芝居、怒りに任せて、結局愛する小糸を殺してしまうのだから、ちょっと救いがなさすぎる。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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