2018年1月3日(水)『歌舞伎座1月、幸四郎襲名披露興行夜の部、双蝶々曲輪日記、角力場と、口上、勧進帳、相生獅子、三人形』

初春大歌舞伎は、松本白鷗、松本幸四郎、松本染五郎の三代揃った襲名披露興行である。双蝶々曲輪日記、角力場と、口上、勧進帳、相生獅子、三人形が演じられた。相生獅子、三人形は、観ないで帰る。

角力場は、愛之助が長吉、長五郎は芝翫。猿之助が休演のため、愛之助が、若旦那で長五郎贔屓の与五郎の二役を勤めた。愛之助は、器用な役者だ。血気盛んな相撲取りと、じゃらじゃらとした大店の馬鹿息子役を演じ分けていた。芝翫の長五郎は、相撲の大関という貫禄を堂々と見せていた。勿論高い下駄を履き、肉襦袢を着て、太く大きく見せる様々な工夫をしていたが、そうした工夫以上に芝翫が、とても大きく見え不思議な思いがした。芝翫襲名から一年、もしかすると芸格が上がったのかもしれない。木戸を潜り抜けて、舞台に出る際には、頭を木戸にぶつける位に腰を折り、ぎりぎりに出られる感じを作り、しかもゆっくりと出た事が、舞台で大きく見えた理由かもしれない。舞台に出ても、身体を動かさず、終始堂々としていて、台詞もきっぱりと話し、大関の貫禄を感じさせた。腰を掛ける、床几に、更に腰かけを置いて座るので、座り姿が、一段と大きく見えた。裏方さん大活躍もあるが、芝翫の芸によって、確かに大相撲の大関に見えたのだと思う。

 口上は、22人が舞台に勢ぞろいしたが、大物は、吉右衛門、雀右衛門、秀太郎、藤十郎位で、菊五郎、仁左衛門、玉三郎、梅玉がいない。確かに、人数は揃っているが、よく見ると寂しい口上だったとも言える。正月は、国立、浅草、新橋演舞場、松竹座と5座で、歌舞伎が行われているから、役者が散るのは仕方がない事だ。猿之助は、昼の部の寺子屋の、よだれくりに出演しているのに、口上にはでなかった。

 勧進帳は、富樫を吉右衛門。弁慶を新幸四郎、義経を新染五郎が演じた。吉右衛門は、これまでに見た富樫の中で、最高に素晴らしかった。何回も観ている勧進帳で、結局富樫が弁慶の必死さに打たれた、自分は腹を切る事を覚悟のうえで、義経一行を見逃して、関所を通過させる物語なのだが、吉衛門の富樫は、舞台に出てきただけで、情に厚い人だと感じさせられた。

富樫が、どこで、弁慶達を偽物と見破ったのか、諸説あるだろう、初めから偽物と思ったと言うのが真相だろうが、何時偽物と完全に見破ったのか。弁慶が勧進帳を読み始めた時に、立ち上がり、歩を進めて、勧進帳を覗き込んで、弁慶に気づかれ睨み合いになったが、その直前、勧進帳が白紙なのに気が付いたはずで、この時に、富樫は、弁慶一行が、山伏の偽物だと判断したと思う。決して疑い深い富樫ではないが、弁慶が白紙の勧進帳を読んでいる時には、もう偽者と見抜いていていたのである。

では、いつ見逃してやろうと思ったのだろう。白紙の勧進帳を、必死に読み続ける弁慶の態度に打たれ、通す気持ちになった。しかし、他者から見ても、あたかも本物の山伏に見えるように、弁慶を追い込んでいく。その過程で、義経一行であると見抜いた富樫は、弁慶の嘘を見抜いていても、主君のために奮闘する姿を見て、通してやろうと言う気持ちになっている。調べはきちんと果たしたという証拠は作りながらも、後ほど、なぜ通したかと、責めを、追わされ、腹を切る覚悟を一応持っての決断である。富樫の視線も、自分の将来を見据えた物思いにくれる、視線を落した姿と、弁慶を見つめる優しくも厳しい視線しか使わず、情のある武士を力強く演じていた。

弁慶の幸四郎は、以前観た時に比べて、力強くなっていて驚いた。でも、私が見るに、幸四郎は、弁慶より富樫に、ニンがあると思う。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

ニュース, ナレーション, 司会, 歌舞伎, お茶, 俳句, 着物, 元NHKアナウンサー