2017年11月25日(土)『11月歌舞伎座、吉例顔見世大歌舞伎昼の部、鯉つかみ、奥州安達ケ原、雪暮入谷畦道』

 11月は、吉例顔見世大歌舞伎。昼の部は鯉つかみ、奥州安達ケ原、雪暮入谷畦道の3演目。

 鯉掴みは、最後の、本水を使った、鯉との立ち回りが眼目という劇で、さして面白さはない。染五郎という名前で、出演する最後の舞台かもしれない。

白塗りの志賀之助役は、染五郎のニンにぴたりで、綺麗な美青年であった。筋はあってないようなもので、志賀之助の本物と偽物が、入れ替わり立ち代わり、早変わりという趣向が客を楽しませる。ただ早変わりは、先代猿之助で十分楽しんだので、驚く事ではない。私は、けれんは好きな方なので、十分に楽しめた。染五郎の陰で、同じ役をする偽物の方が、もう少し美男だと、なお良かった。染五郎が、偽物を演じている時、表の優しい柔和な顔で、横を向いた一瞬に、悪の権化のような顔に、瞬時に変わるのが、私には楽しかった。ただ本水は珍しい趣向ではあるが、冬まじかな今なのに、何で夏芝居にもってこいの、鯉つかみを出すのか、疑問だし、不思議だ。

 奥州安達ケ原は、長い舞台で、その一部、環宮明御殿の場だけ見ただけでは、筋が分からず、困った。見取りは、いい時もあるが、不案内な時もある。

 この幕の眼目は、袖萩が盲目の姿で、娘のお君を連れて、父のいる御殿を訪ねるあたりが眼目で、雪の降りしきる中、祭文を語り、親への不幸を詫びるあたりは、涙を誘う。

吉右衛門が、貞任を演じ、最初は貴族のなりで、登場し、貫禄を見せ、途中見破られて、ぶっかえるが、ここでも大きさを見せた。貞任は、吉右衛門の、はまり役である

直侍は、菊五郎の当たり役、世話物は、見ていて、言葉が鮮明に分かるので、楽しい。江戸時代の庶民の生活感が見られる、貴重なタイムマシーンである。雪の中、二八蕎麦屋に来て、「天と一本付けてくれ」で、天婦羅饂飩と、熱燗一本と分かる。「天は山になりました」と言う主人の言葉も、売り切れたと言う事も分かる。火鉢を尻の下に置き、金玉を温めながら、「ちじみ上がって困ってしまった」と言う所は、下品にならず、さらっと演じて、菊五郎の手に入った芝居だと分かる。美千歳花魁は、時蔵。東蔵の按摩は、高音上手く使い、らしく演じていた。