2017年2月4日(土)『猿若祭二月大歌舞伎、勘太郎の二人の息子が初舞台を踏む、門出二人桃太郎、絵本太閤記、梅ごよみ』

 歌舞伎座の2月興行は、猿若祭で、中村勘九郎の二人の息子が、初舞台を踏むというのが、最大の売り物である。兄が勘太郎を三代目として継ぎ、弟が中村長三郎を二代目として襲名し、初舞台を踏んだ。

勘九郎の二人の息子が、お父さんの勘三郎、お爺さんの勘三郎も演じた、桃太郎を演じた。演目は、「門出二人桃太郎」(かどんでふたりももたろう)、川から流れてきた大きな桃を、お爺さんとお婆さんが運んできて、桃を割ると、中から、赤い褌姿の二人の子供が出てきて、桃太郎と名乗る。鬼退治に行く事になり、一旦舞台から退き、鎧姿で登場し、見得をきると、大きな拍手が送られた。二人が可愛くて、弟が、お兄ちゃんの動きを真似て、ちょっと遅れて、扇子を動かしたり、見得を切ると、観客から、大きな拍手が送られる。見た目が実に、可愛いのだ。私も「中村屋」と声を掛け、拍手を送ってしまった。

 お婆さんが時蔵、お爺さんが芝翫を勤め、染五郎が犬彦、猿彦を松緑、雉彦を菊之助が演じた。舞台には、次々に、歌舞伎のスターが登場し、菊五郎、芝雀、梅玉、魁春が顔を揃え、壮観であった。先月の右近の右團次襲名は、海老蔵と猿之助だけの地味な襲名だったが、これだけ看板役者を揃えた二人の初舞台は、松竹の経営戦略もあり、二人の将来は、保証されたようなものだが、果たしてその通りになるのだろうか。長生きして、検証したいものだ。十八代勘三郎が生きていたら、さぞ喜んだろうと、感慨深いものがある。

地下の売り場に、十八代勘三郎と親交があった、浅草文扇堂の出店が出ていた。記念の扇を売っていた。御主人の荒井修さんも、勘三郎を追うように、去年二月に亡くなった。修さんも、二人の初舞台、大喜びだったと思う。仲の良かった十八代勘三郎と、喜びを分かち合っていると思う。それにしても、時の移ろいは、早く、激しい。

 絵本太閤記、尼崎閑居の場が次の幕。芝翫が光秀を演じたが、冒頭に、雁治郎演じる息子の十次郎が、白塗りの鎧姿で出てくるのだが、顔を白く揃く塗ってはいても、太りすぎていて、コミカルに見えて、悲劇に入ることができなかった。十次郎の悲劇が、その後の明智家の悲劇の序章とならず、眠りタイムの導入になってしまった。

 梅ごよみは、モテ男の丹次郎を、深川芸者の二人が、恋の争いをする、痴話喜劇である。深川芸者は、張りと意地が身上な芸者だが、染五郎演じる色男丹次郎を巡り、深川芸者二人、米八(勘九郎)と仇吉(菊之助)が、恋の鞘当てをする。

 染五郎が、柔らかく体を動かして色男丹次郎を演じる、もともと美形だから、ニンにも合ているが、私は、染五郎の肩の動かし方で、男の色気を感じたし、立膝を付いて座る姿も美しく惚れぼてとした色男振りであった。今の丹次郎である。立ち役の勘九郎が女形を演じているが、若い頃は女形も演じていたので、違和感は全く感じず、菊之助との、丁々発止で続く、痴話げんか、意地の張り合いを、深川芸者が使っていただろう辰巳言葉で、しゃべり合う所は、結構楽しかった。伝法で、強い言い回しだったが、面白かった。特に勘九郎のセリフ術は、女形をした時の、父、勘三郎に極めて似て、楽しくもあり、懐かしかった。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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