2016年11月9日(水)『歌舞伎座11月興行昼の部, 元禄忠臣蔵、口上、盛綱陣屋、芝翫奴』

 歌舞伎座の11月公演の夜の部を観に行った。

 一幕目は、元禄忠臣蔵、おなじみの仁左衛門の綱豊、一方の富森助右衛門は染五郎だった。今回は、仁左衛門の言葉の一言一言が、胸にしみて聞こえてきた。明晰な仁左衛門の綱豊は、だまし打ちや、後ろから切るとか、上野介を殺害するにしても、卑怯な振る舞いをせず、堂々と行うべきだと、助右衛門に助言していた。しかし、頑迷な助右衛門は納得せず、夜陰に乗じて、能衣装をつけて能舞台に向かう上野介を槍で、後ろから刺そうとする。上野介とばかり思っていた能衣装を着けた人間が、実は綱豊であり、その綱豊から、再び、諭される。

今回、綱豊の明晰な言葉を仁左衛門の口から、改めて聴いて、綱豊は、まず、第一に、御家再興を願い出ている時に、上野介に復讐しようとするのは、二股をかけていて、武士として問題である事。大石は、その事が分かっているので、京都で、遊んで暮らしているのだという理解。第二に、お家再興がなっても、小さな大名として御家再興が成るより、上野介に見事復讐する事の方が、次期将軍になる綱豊としては、楽しみである事。第三に、そのためには、再三の御家再興の嘆願を将軍にとり持つ事をやめ、握りつぶしたいと思っている事。第四に、上野介を殺害するには、1人で暗殺するというような卑怯な方法ではなく、堂々と殺せ、と思っているという事。この4点の綱豊の願いは良く分かった。舞台では、こうした綱豊の考えが、行ったり来たりしているので、本心がどこか、分からなかったのだが、今回の芝居で、綱豊は、「御家再興より、大石を中心に 徒党を組んで、上野介を打ち果たせ」と、助右衛門に、アドバイスというより、命じているように思えた。「堂々と討ち入りをして上野介を殺せ、暗殺のような卑怯な殺し方は、断固反対である」と、助右衛門を諭してるのだ。こうした綱豊の考えが、酒を飲み、酔った中で、論理的にではなく、思いつきのように、ランダムに思いを訴えていく。今回は、この綱豊の思いが、痛いほど分かった。

しかし、助右衛門は、綱豊の考えを肯定しない。結局、これまで思いつめたままの行動をとる。上野介を夜陰に乗じて槍で刺し殺そうとして、失敗するのだ。暗殺を試みて空振りに終わり、再び、綱豊に諭されて舞台は終わる。となると、助右衛門には、次期将軍綱豊卿に、直々に、暗殺は思いとどまれ、と言われているのに、それを聞かない、頑固さ、頑迷さが必要になってくる。染五郎には、その頑固さが感じられない。真っ正直過ぎて、鬱積した心が、舞台に出ない。座敷で、綱豊に諭され、納得したように見えるのだが、実際は暗殺を決行しようとする。こうした心のねじれが見えないのだ。正直者にしか見えないのだ。助右衛門は、染五郎のニンにあっていないと感じた。逆に、染五郎は、綱豊に向いた役者なのではないかと思った。じゃあ、誰が、助右衛門を演じられるのか、忠義一徹の頑固者、頑迷で、人の話など聞かない一徹な人物は、又五郎か、猿之助しか演じられそうもない。

口上は、藤十郎が、10月に続いて、文書を読んでいて、これくらい覚えられないのかなと不思議に思ったし、梅玉が10月と同じように、風邪引いたら、効くか効かないかわからない薬を持ってきたとか、禁煙に成功したら、私にも禁煙を勧めるとか、まるっきり10月の口上と同じ事を言っていて、芸がないと思った。