10月23日(金) 「10月国立劇場2部 魚屋宗五郎、太刀盗人」

菊五郎の魚屋宗五郎は、みどり公演で、度々打演じられるので、一体これまで何回見た事だろう。他の役者の宗五郎も見たが、菊五郎の宗五郎が、今を代表する宗五郎だと断言する。妹を殺され、禁酒した酒を呑み始めて酒乱になる過程が、極めてナチュラルだからである。舞台だから、もちろん実際に酒を飲む訳ではないのに、湯呑で呑み始め、片口で一気に呑み、最後は樽ごと、全部で2升もの酒を飲んでしまうのだが、酒を飲み酒乱になっていく様が、ギアを上げるのではなく、自然に酔って、酔い潰れていくさまが、ありありと分かり、菊五郎の芸の力に、圧倒される。

河竹黙阿弥が明治16年に書いた、新作歌舞伎だが、よくできている芝居だなと思う。芝で魚屋を営む宗五郎の妹が、さる旗本に見初められ妾奉公をする。宗五郎には200両の大金が与えられる。今日の解説では、2000万円と言っていた。この金で、借金まみれだった宗五郎の一家は、借金を返し、商売道具を買い揃えて、順調に商売は繁盛している。旗本の妾になった宗五郎の妹が不倫を理由に、殿様に惨殺される。妹が死んだという連絡が宗五郎家に伝えられ、家では、仏前に、山盛りのごはんに垂直に箸がたてられ、線香の煙が部屋に漂っているところから舞台が始まる。舞台には、宗五郎は折らず、女房お浜、奉公人三吉、弔問の客、おみつ、おしげが座っているところから始まる。すぐに花道から宗五郎が、戒名を手に、蕭然としたうちに家に戻ってくる。この芝居、宗五郎のキャラクターが、酒を飲まない前半と、酒を呑んで乱れる宗五郎が、がらりと変わるところにある。前半は、父親や、女房、三吉が、ともどもに、旗本の家に文句を言いに行けとたきつけるのだが、殿様には恩がある、軽々しい事は出来ないと突っ張る。道理を理解した大人の男が、虫を殺して我慢している腹が良く分かった。後半は、酒を飲み始めて、酒乱となり、人が変わっていくところが見せ場である。

菊五郎の酒乱になっていく過程が、自然で素晴らしいが、前半部分の、怒りを押し殺して、我慢している腹が良く分かり、口できれいごとを言いながら、腹ではそう思っていないところが、娘の同僚、おなぎが弔問にやってきて、内幕を語ると、途端に腹の部分が表に出て来て、一気に切れるところが、面白かった。

太刀盗人は、ワンテンポづつ遅れて踊るところが楽しかった。