11月10日(火)「歌舞伎座顔見世大歌舞伎、3部一條大蔵譚の奥殿,4部義経千本桜、川連法眼館の場を見る」

歌舞伎座の顔見世大歌舞伎、第3部は、一條大蔵譚の奥殿だった。一條大蔵卿を白鴎、常盤御前を魁春、鬼次郎を芝翫、お京を壱太郎。この芝居の眼目は、いつもは馬鹿丸出しの一條大蔵卿が、あくまでバカ殿様を演じているが、本心は、源氏贔屓の貴族である事だと思う。

今回は奥殿だけが出た。奥殿は、いきなり真顔の大蔵卿が登場して、勘解由をなぎなたで成敗するところから始まるので、この演目の、馬鹿顔と凛々しい真顔の変化が乏しいのが残念だった。門前で、散々バカ殿様振りを見せて、客も大いに笑い、その後に奥殿で、本心を表す真顔が登場し、その変化の大きさが役者の見せどころだし、観客としても楽しい所なのに、中途半端に思った。せっかく白鴎が大蔵卿を演じているのに、その芸の全てを見られなくて残念だった。常盤御前を魁春が演じたが、内に秘めた心を面に出さず、いかにかつての配下鬼次郎が現れても、用心して本心を明かさず、堂々と振舞う所に、打倒源氏の思いを秘めながら、子供たちの命を守るために、秘密を表に出さず、健気にも堂々と振舞う常盤御前の本性をみせてもらった。魁春のニンにぴたりとはまる役だった。鬼次郎を芝翫が演じたが、静御前への怒りをきっぱりと見せていた。お京を壱太郎が務めたが、何故松竹が壱太郎を重用するのか私には分からない。口跡が甘すぎる、メイクも甘い。壱太郎は、そんなに素晴らしい女形なのだろうか。まだ私には、壱太郎の良さが分からないだけかもしれない。

第4部は義経千本桜、川連法眼館の場、忠信を獅童、静御前を苔玉、義経を染五郎。力強い忠信だった。獅童の男っぷりが前面に出て、これまでとは違う忠信の陽だった。狐忠信になると、やや軟弱になるのが普通だが、獅童は狐忠信になっても、強さをもって演じて、三味線や、鼓に乗り、身体を大きくひろげて、感情を強調するのは、面白い趣向だと思った。苔玉の静御前は、可愛くて結構だが、手ごわさはない。その時その時の感情を素直に顔に出しているが、これが可愛くていい。梅玉の芸養子だから、立ち役が専門になるのだろうが、奇麗なうちは、可憐な女方として活躍して欲しいと願う。勿論玉三郎が演じる演じる静御前が本物だとすると、なかなか難しいが、苔玉の静御前は、これでいいと思う。染五郎の義経は、奇麗で、きっぱりとしていて、良かった。ただ染五郎の義経は、いかんせん31歳で死んだとはいえ、平家を打倒した大将には見えない。まだ若すぎるという印象が強い。でも、千本桜の義経は、悲劇の主人公なので、勧進帳の義経と同じ美少年路線でいいのかもしれない。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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