8月23日(金)『歌舞伎座二部。東海道中膝栗毛を観る』

 八月納涼歌舞伎の第二部を見た。毎年八月に演じられる、四作目の東海道中膝栗毛だ。猿之助と幸四郎コンビは息があっていて緩急自在だったし、出演する歌舞伎役者が、観客を楽しませようとサービス精神に溢れていて、楽しませてもらった。

去年の前作で、猿之助が演じる喜多八は死んでしまったので、再び幽霊となって幸四郎の弥次郎兵衛と旅をするのかと思ったら、幕が開くと、屋根の上に、二人が寝ていて、なんとこれまでの事は、夢だったという、落ちになっていた。つまり喜多八は死んでいなかったのだ。苦しいが、まあ夏芝居なんて、こんなものだ。でも結構いい加減だなと思い、笑ってしまった。

お馴染みの歌舞伎の名シーンをいくつも取り込んだり、CMや、NHKの番組でくすぐって笑いを取ったりして、全編笑いに包まれ、スピーディな展開で、楽しく時間が過ぎていく。染五郎と團子が、どんどん大きくなり、猿之助、幸四郎の背を超えていき、少年の成長の早さを強く感じた。本水を使った滝の流れ落ちる中での立ち回りは、夏芝居らしく涼しく感じたが、水量が凄く、容赦なく役者の顔や肩に落ちる。水たまりに飛び込んでずぶ濡れになるところも、凄まじかった。役者はまさに熱演を超え、水浴びを楽しんでいるようにも見えて、涼しさを、強く感じさせた。

この芝居の一つの見どころは早変わり。幸四郎と猿之助が悪役の武士二役になり登場、伊勢参りに絡むが、この悪役の武士と、弥次喜多の二人が、早変わりして、舞台が進む。二人一緒に早変わりしたり、一人ずつ変わったり、とにかく早変わりの時間が早いのに驚くし、本人と吹き替えの人と敢えて会話させ、話せないよね、と言って場内を笑わせたり、アドリブを交えて早変わりをネタに芝居したりと、早変わりを存分に楽しませてくれた。海老蔵の先月の13役の早変わりもいいが、こうした単純に弥次喜多が悪役武士と入れ替わる演出の方が、リラックスして早変わりを楽しめると思った。早変わりを、役者も観客も、一緒になって楽しめる演出だった。

最後は弥次喜多二人の宙乗りで、満場拍手の中でお仕舞い。可笑しかったが、終わってみると、この芝居には、山はなく、じゃあなんだってことで終わり。夏芝居はそれでよし。大笑いをして、夏の午後の時間潰しには、丁度良かった。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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