2016年1月2日(土)『歌舞伎座初芝居 昼の部、廓三番叟、義経千本桜の鳥居前、梶原平三誉石切,茨木』

 初芝居に行く習慣がいつ頃からできたのか、定かではないが、昭和の終わり頃からであろう。年の初めの、歌舞伎見物、私にとっては、楽しい、一年最初の暇潰しである。

今年も歌舞伎座の初芝居に行った。昼の部を観て帰ったところだ。毎年、毎年、歌舞伎座の新年の飾りは、割と地味だが、今年も、正面に大きな鏡餅が飾られ、1階ロビーの正面の上側に、竹で編んだ四角の枠が取り付けられ、何枚かの凧と、繭玉が飾られていた位であった。それでも、着物姿の女性、とりわけ振袖を着た女性が多く、華やかさを増していたし、男の着物姿も、年々増え、例年より多かったように思えた。三越で弁当を買って芝居を見に行くのが常だったが、今年は、三越は初売りが、三日から営業で休みだった。松屋で弁当を買って補った。銀座は、中国人の観光客が多く、銀座の店の初売りに行ったのだろう、大きな袋をたくさん持った人が目立った。

正月の歌舞伎座の座組は、吉右衛門、幸四郎、玉三郎、雁治郎、染五郎、松緑、芝雀、魁春、左団次が揃った。昼の部は、廓三番叟、義経千本桜の鳥居前、梶原平三誉石切,茨木の、みとりの4演目である。

最初の演目、廓三番叟だった。廓の中の三番叟という趣向で、傾城千歳の孝太郎は、体が硬く、色っぽさに欠けて、とても傾城には見えない。元々顔に品のある役者ではないが、酒に酔ったところなどは、無理やり腰を振っているようで、フラダンスのようで振りが悪く、踊りが面白くなかった。もっと鷹揚なゆったり感が欲しい。傾城は、最高級の娼婦で、歌舞音曲に秀でて、何事も軽く軽くさばき、鷹揚な雰囲気がないと苦しい。新造は種之助。太鼓持ちは染五郎。染五郎が舞台に出ると、雰囲気が、ぐっと明るくなってきた。染五郎のスター性がなせる業だ。種之助の新造は、きびきびしていていい。姿、形、顔も綺麗だし、女形として精進してほしい。

二つ目は、義経千本桜の鳥居前、静御前は児太郎、義経は門之助、忠信を橋之助。橋之助は、去年12月京都南座、吉野山で忠信を演じている。門之助の義経は、もともと品のある人なので、それらしい。問題は、静御前の児太郎、花形ではあるが、もともと綺麗さのない女形なので、そこを認識して芝居しないといけないのに、玉三郎バリの美しさを、自分は持つと誤認して芝居をするから、外すのである。児太郎は、華がないのだから、顔だけで芝居するのは無理である。顔だけでなくて、身体の動きすべて動員して演技しなければならない。児太郎は、まだ若いから段取りだけで、芝居をしてしまうのであろうが、義経にたいする深い愛情は、心で演じないと駄目だと思う。忠信は橋之助、手ごわく、いい狐忠信だった。まだこの幕では、狐忠信といっても、花道で狐手をするだけだが、見えが、きっぱりとしていて、気持ちがいい。多分、心で演じているのであろう、芝翫襲名を今年に控えていて、気持ちが入っているのだと思う。

 三つ目は、吉右衛門の石切梶原。吉衛門の当たり芸で、何度も見た芝居だが、余裕を持って演じていて、エンターテインメントとして安心して楽しめた。武士の対立、親子の情、名刀の扱い、切れ味、様々な要素が、短時間に組み合わされ、最後は名刀の切れ味が、すかっと表されて、気分よく帰れる、正月には、ぴったりの演目だ。梢は、芝雀、この役は芝雀の持ち役になっていて、父への愛情がよく伝わってくる。六郎太夫は歌六,大庭景親は又五郎、吉右衛門劇団総出演という、呼吸もぴたりとした安定した役組みで、楽しめた。

吉右衛門の梶原平三景時がなんでいいのか、演技に余裕があるからだ。いつにも増して、口元に微笑みが浮かんでいる。武勇を兼ね備えた、人情も厚い、武士の情けの何かを知った武士の中の武士を、円熟期にある吉右衛門が、半ば楽しみながら演じている。余裕と自信に溢れているから、名刀の切れ味を確かめるための二つ胴も、吉右衛門なら、手加減一つで、ミリ単位で切り分けることができると思ってしまうし、手水鉢を、刀で真っ二つに切るところなども、本来はいかに名刀とはいえ、できっこないのであるが、吉右衛門なら、切れても当たり前、手手水が、まっ二つになっても、不思議ではないように思えてくる。これは、芸の力である。「刀も刀、芸も芸、役者も役者」、である。

 四つ目の演目は玉三郎の茨城。正月は、美しい玉三郎を観たいのであるが、この芝居は、出から老婆で出てくる。かつての乳母だが、顔は老婆のメイク、左手を失った姿で、舞うところが上手いと思った。バランスが崩れないのだ。茨木童子に変わっても、恐ろしいメイクで、迫力と、力強さは確かにある。ただ、この芝居を通して、美しい玉三郎は見れなかった。私は大不満。美しい玉三郎を見たいのだ。化け物姿の玉三郎を、正月早々見たくはないのだ。

松緑の綱は力強い、荒事なら、安心して観ていられる。顔のメイクもいいと思った。

鈴木桂一郎アナウンス事務所

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