令和4年1月3日(月) 「歌舞伎座初芝居、第一部、一條大蔵譚。祝春元禄花見踊り」
歌舞伎座の一部を見る、勘九郎の一條大蔵譚と、祝春元禄花見踊の二本。
勘九郎は、平成13年歌舞伎座で、大蔵卿を初役で務め、中村座での勘九郎襲名披露興行でも務めている。いつまでも父勘三郎を持ち出しても仕方がないが、今回の勘九郎の、大蔵卿は、勘三郎そっくりで、懐かしくて、涙が出た。勘三郎にそっくりだといったのは、悪意があって言ったのではなく、勘九郎の成長が、著しいなと思ったからだ。私が勘三郎にあり、勘九郎にないものは、愛嬌だと思ってきた。勘九郎が、生真面目に役に取り組むあまり感じない、芸のゆとりの事だ。歌舞伎はエンターテインメントだから、生真面目さが、そのまま表に出ては、観客は、心から楽しめない。この点勘三郎は、熱演していても、余力があり、舞台で遊んでいるようにも見え、愛嬌が豊かだった。こうした親父勘三郎が持っていた役者の特色を、ようやく勘九郎が持ち始めたのが嬉しかった。
勘九郎の馬鹿公家は、本当に馬鹿、呆けた貴族に見えた。顔の筋肉の緊張を解き放し、自在に顔を変えられるのがいい。眉を上下させ、額を動かし、視線を自在に動かし、目力を抑えて、眼球を動かし、特に、口を開いた呆けた表情が印象的だ。セリフの母音の唇と舌をそのまま残して、ボケっとした表情をするのが目に残った。この呆けの表情を最高度に見せる事で、隠している本物の大蔵卿の顔に戻った時のきりっとした表情との、落差を楽しめるのだ。扇を顔で隠した一瞬に、素顔から呆けた顔に、返る技が素晴らしいと思った。勘九郎大熱演の大蔵卿だった。
次の幕は、祝春元禄花見踊。明治11年初演だが、出る度に、踊りは変るようだ。今回は、獅童の息子、小川春樹君初お目見えが話題となった。四歳の可愛いやっこ姿で、観客からは、可愛いという声が聞こえた、舞台で息子を見守る獅童の緊張した顔と、脇を固めた七之助、勘九郎の、春樹君を見つめる温かい笑顔が印象的だった。元禄時代は、女だけでなく、男も、こんなに美しい着物を着ていたのかと驚いて、お仕舞いであった。
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